vol.207 垣間見えた見習い仕事

 新しい現場での作業がスタート。4月とは思えない暑さの中、古屋根を解体し終え、下地(骨組み)の補修に取り掛かる。

 下地の補修をどの程度まで行なうかは、前回の葺き替え時にどの程度まで力を入れているのかによるところが大きい。屋根面と違い、下地は直接には傷まない。前回しっかりした下地を組んでいれば、今回ほとんどいじらなくてもいい、ということもある。が、もちろんその逆もある。使った竹の切り旬が悪く、ボロボロに折れてしまっていたり、重さでたわんでしまうような頼りない下地であったり、凸凹が激しい下地であったり…といろいろだ。無視して茅を葺いてしまうことも出来なくはないが、それで苦労するのは自分だったりもする。自分が安心出来る、作業しやすい下地に今のうちに補修しておく必要がある。

 

 美山の屋根下地は、基本的に4段階だ。さす(合掌)と呼ばれる最も太い縦の材に、やなか(母屋:もや)と呼ばれる横の材が載り、その上にれん(垂木)が縦に並び、最後に竹が横向きに縄で括られる。最上段に来るこの横竹に茅屋根が載ることになるので、横竹の時点で全体がフラットになっているのが望ましい。

 普通にやればフラットになるのでは?と思われるかも知れないが、昔の建築である。屋根下地のように見えない部分には、見栄えを気にしない材が使われている。グネグネと曲がった雑木が混じっていたり、余り物のような太さや長さがバラバラの部材で構成されたりしていて、最終的にフラットな状態に持っていくのはなかなか難しいのだ。

 今回の屋根は凸凹がひどく、横竹の右端などは、角の垂木の裏側に差し込んである。中腹を見て合点がいった。極太の垂木も細い垂木も、全てがやなかに直接結ばれている。こういう場合、細い垂木にかませものをして高さを太い方に揃えるか、極太の垂木を削って細い方に揃えるか、要するに横竹が同じ高さで結べるように調整しなくてはいけない。それをしなかったから、この下地の横竹は凸凹にうねってしまったのだ。

 自分が見習いの頃を思い出す。その辺の理屈がいまいち分かっておらず、留守番仕事の日にひとりで一日かけて垂木とやなかを片っ端から縄で結んだのに、翌日あっさりと親方に全て鎌で切られた。ショックだったが、今なら分かる。これではいかんのだよ、と。

 これは全てやりなおしだな、と思って縄を切っていると、垂木が下へとズレだす。あれ、下の方でクギでとまってたと思ったが?と思って確認すると、何本も打たれたクギがぐにゃぐにゃと曲がり、結局1本もまともに貫通出来ていない。そして、上から縄で結ばれてその状況が隠されていた。

 これも苦笑い。そうそう、見習いの頃にこんなことがあったあった。硬く締まった古い垂木を五寸釘で打ち抜くことがどうしても出来ず、親方が次々進める傍らで、何本も釘が曲がって、抜くこともかなわず、ワラビが生えとるぞと揶揄されながら必死にやり直していた。

 

 屋根裏から反対側の面の下地を見ると、精度は分からないがちゃんとかませものが入っていたりする。この面だけが、妙に出来が甘い。かつての自分のように、これも親方不在の日に、一日で終わらせとけと任された見習いの仕事だろうか、と思うと、やれやれ面倒臭いと思うやら、分かるわ~いろいろ証拠隠滅したくなる気持ち、と同情したりもする。

 

 いずれ未来、今度は自分が手を入れた下地をまた誰かが見る。前の職人さん丁寧な仕事してるわ~、と思ってもらえるよう、しっかりやらねば。全ての垂木の五寸釘を一発でとめ直しながら、よく見てろ見習いの頃の自分、と思い出に呼び掛ける。