現場の元請さんから、終わり掛けにケヤキの板を頂いた。ケヤキ材は高価な上、茅葺き職人にとって道具作りのためにしばしば必要となる材。これはありがたい。
茅葺き屋根を叩き揃えるための道具(美山ではそのまんま“たたき”と呼ぶ)が、長年の使用ですっかりすり減ってしまっている。これをボチボチ作り直したいと思っていた。
が、頂いた板では少し薄い…。あまり軽くなってしまっては意味がない。
そこで発想を入れ替え、軽くて小回りの利くたたきを別にひとつ持っていてもいいな、と考えた。さらにどうせなら、今までのものの下位互換ではなく、独自の役割も持つものがいいな…と思った時、ふと考えついた。
ITS(国際茅葺き会議)の時、一緒に屋根に上がった海外の茅葺き職人が、日本のたたきを使いながらブツブツ言っていた。「うちの国のやつならこうやってサイドスローみたいに使えるのに。」
海外ではレゲットと言ったか。短い柄付きのたたきで、細かい円形の刻みがついていて、主にサイドから振るように屋根を叩く。
日本のたたきもいろいろだが、多くは、洗濯板のようなギザギザの刻みが入れてある。これで屋根面を叩くことで、刻みが茅に食い込む形で屋根面が揃えられる。(木そのもので叩いているうちにすり減って木目が出て、それを刻みとするパターンもある)
洗濯板タイプも円形刻みタイプも、叩いた際に茅に引っ掛かるようになっている理屈は一緒。ただ、円形ならば叩く方向を選ばない。縦方向にしか使えない洗濯板タイプに比べて、円形刻みなら横から叩こうが下から叩こうが、ちゃんと屋根面に噛む。
片手仕様の柄付きなら、重いものは無理だ。ならば薄いケヤキ板はちょうどいい。いそいそと製作開始。大方必要な道具は揃っているから、新作の製作は久しぶり。道具作りもたまにじっくりやると楽しい。
出来上がってみると、あれ、意外と重い。次のややこしい屋根の現場で役立つと思ったのに、これでは筋トレ仕様。これはこれで使えるだろうが、取り回しという点ではあまり利点がない。
悔しいから、道の駅で別の板を仕入れてきて、さらに小振りのものを製作。うん、これはイメージ通り。ただし硬いケヤキ材と違って、すぐにすり減ってしまうかも知れない。
たいてい最初の道具作りは、親方や先輩の道具の模倣から始まる。だから、お手本のない道具は試行錯誤が必須で、失敗もある。お蔵入りになったオリジナル道具も決して少なくない。
けれど自分なりに工夫した道具が、現場で他の職人の興味を惹いたりすれば、やっぱり嬉しい。市販の道具では賄いきれない、茅葺き職人世界の面倒臭くも面白いところ。
新しい戦力となった“レゲット風たたき”も、ボロボロにすり減るまで使える道具になれば嬉しい。
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