vol.49 国際茅葺き会議 日本大会

 世界中の茅葺き職人、及び関係者や興味のある方々が集まって、情報共有や技術交流、親睦を深める『ITS(International Thatching Society):世界茅葺き会議』が開催された。本年の開催国は日本。白川郷、京都市内、美山町、神戸を会場として、5日間ほどの日程で行われた。

 

 茅葺きって、日本だけかと思っていました。

 と、よく言われる。

 

 もしも野山に放り出された時、どうするか。洞穴でもあればいいが、そうでもなければ…。そこら辺の草木を集めて、何とかして雨風をしのごうとするのではなかろうか。だから、茅葺きは人類最古の屋根と成り得た。

 

 だから、茅葺きは世界中に、今もある。

 そして、温度差はあれども、茅葺きを守り、また愛する人々も、海の向こうにたくさんいる。

 

 4年前、スウェーデンで開催された国際茅葺き会議に参加させて頂く機会を得た。いろいろと、いい勉強になった。日本では、茅葺き職人であると名乗るだけで、いいお仕事ですね、稀有な存在ですねと持ち上げられる。しかし海の向こうには茅葺き職人がたくさんいて、より高度な挑戦や課題に向き合っている。自分の存在のちっぽけさを思い知るとともに、我々は絶滅危惧種などではない、という誇りも得た。

 

 4年前に知り合った面々との再会はとても嬉しかった。英語のスキルは中学生並みだけれど、そこは笑顔で乗り切るしかない。国は違えど茅葺き職人同士、何となく分かり合える…気がする。

 

 前半の会場は、日本が世界に誇る茅葺き世界遺産、白川郷。結(ゆい)と呼ばれる伝統的な形式にのっとっての屋根の葺き替えを、海外の職人たちが行なった。歴史的な瞬間に立ち会っているな…という興奮があった。

 

 語弊を恐れずに言えば、白川郷の結(ゆい)による屋根葺きを海外のプロの職人たちに見てもらうことは、やや複雑な気持ちもあった。

 結(ゆい)とは相互扶助のことであり、村人同士が資材や労力を提供し合い、プロの職人の監督のもと、いわば素人の人海戦術で屋根を葺き上げる方法である。恐るべき速さで完成することになるが、"職人技"といった表現が出来るものではない。

 海外の友人との立ち話の中で、思わず本音が出てしまった。このやり方はある意味特殊だよ、not professional な方法の再現だよ、と。

 しかし海外の方の返答は、逆に、嬉しいものだった。

 I know. だけどそれが素晴らしい。プロでもない村人が屋根を葺いていた、伝統的な手法が継承されているのだから…。

 

 今回も、自分の器の小ささを痛感するとともに、茅葺き屋根屋としての誇りを新たにする機会を頂いたと思う。