vol.102 局所的な葺き替え

 昨年は気味が悪いほど雪が降らなかったが、今年は大雪らしいともっぱらのウワサ。気候的には何となくホッとするものの、屋根屋的には気が気でない。雪がずり落ちた後に大穴が開いてしまう茅葺きがあれば、駆け付けなくてはならないこともある。しかし全て雪に包まれた状況下で、安全に作業し得る内容は限られる。

 保険と一緒である。事が起こってから慌てても遅いこともある。無事なうちに対策しておくことが大事。

 

 今回の作業は、傷んで極薄になってしまっている屋根の局所的な葺き替え。葺き替えには違いないのだが、実質応急的な処置。正規の厚さで葺き替えても、すぐに上から広がってくるコケに浸食されてしまうため、異常に早く傷む。費用対効果が極めて悪い。だからと言って差し茅などの修繕で済まそうとするには、屋根が傷み過ぎている。

 そこで、今にも雨漏りしそうな部分に限って、最低限の厚さで薄く葺き替える手法をとった。使用する茅の量を節約(=費用を抑える)しつつ、表面上は葺き替え同等の耐久性を得るための方法。

 

 葺き替えるか諦める(手放す、トタンを被せるなど)か。その2択しかないと思っているお施主さんも少なくない。屋根の大きさと工事規模によるが、葺き替えとなれば数百万単位のことであるから、悩んで当然であり、諦めるという選択が少なくないのもまた当然であろうと思う。

 しかし職人の気持ちとしては、やはりプロに相談して欲しい。お施主さんの事情に寄り添って、様々な方法を提案することは出来る。むやみな安売りは出来ないものの、お施主さんの考えに合わせて、工事内容と費用を見直していくことは出来る。葺き替えか、修繕か。全体か、部分か。工期のこと、使う材料のこと…等々、幅は広い。今回のような小規模な工事でも、こまめに行えば屋根は守れるのだ。

 

 昔と違い、茅葺きに住んでいても修理のことはサッパリ分からないというお施主さんは多い。お施主さんに茅葺きのメンテナンスについての知識を与えていくことも、現代の職人の役割かなと思う。