vol.92 ユキワリ(雪割り)の加工

 屋根葺きもてっぺんに近付いてきた。天気予報が怪しい日を見計らって、先日掘り倒したヒノキの回収と加工を行なうことにした。

 前回同様、目論見通りの雨降り…。屋根葺きが出来ないこういう日にも出来る仕事をとっておくのは基本なのだが、本来なら晴れているに越したことはない。ずぶ濡れになりながら、山から根付きヒノキを運び出す。この時点で、心と右肩がすでに潰れかけた。

 

 倉庫に運び込んでセッティング。さて、初めてじっくり品定めを行なう。あぁ、悪い予想の方が的中してしまったか。2本とも、根っこの直前で微妙にカーブしている。いい形の根っこがあるのに、それをユキワリの先端にしようと思うと、ユキワリが横方向にカーブしたものになってしまう。

 茅葺き屋根を横から眺めるだけなら、これでもいい。しかし、正面から見ると、ユキワリが不自然な方向を向いていることになるのだ。これを棟上で矯正するのは骨が折れる。

 仕方がない。苦労して露出させた根っこを、泣く泣く全て切り落とす。根っこ直前で発生しているカーブ。代わりにこれを利用しよう。うまくいけば斜め方向に緩やかに反り上がったユキワリになる。これはこれで好きな形。

 わずかなカーブを描く幹から、最大限に反り上がっているように見える形に成形する。それも、違った個性を持つ2本のヒノキが、極力同じような形になるように。職人のセンスと技術の見せ所。これの見え方ひとつで、茅葺き屋根の持つ荘厳さや個性のようなものが、大きく変わってくるのだ。

 そんなにジックリ見上げる人はいないって…と自分に言い聞かせつつも、わずかな凹凸も気になって削り続ける。こんなところかと作業を切り上げる頃には、ずぶ濡れの作業着もすっかり乾いてしまっていた。さぁ今度は棟に上げてみた時どうなるか。屋根に命を吹き込み直す瞬間が近い。