連日の猛暑の中、ゲリラ豪雨確率の高い日。屋根をいじるのはリスクが高いと判断して、山で現場用のユキワリを掘ることにした。
ユキワリ(雪割り)は、美山のような茅葺き屋根のタイプにおいて、一番てっぺんに配置されている横向きの材である。両端がしゃちほこのように、キュッと反り上がっている形をしているものが多い。普通ヒノキの丸太を用いる。“カラス”、“カラスドマリ”などと呼んだりもする。
美山のユキワリは、まっすぐな丸太を載せただけの形が主流だったらしい。稲刈り後の天日干し用の稲木が昔は各家にあり、稲刈り以外のシーズンにそれを用いて、屋根葺き替え用の足場をこしらえていた。そしてユキワリを載せる段階になると、稲木のうちでまっすぐ立派なものを選んでユキワリにしたのだろう。
ユキワリの端がキュッと反り上がっているのは、お隣の日吉町方面から伝わった流儀らしい。あまり詳しくないが、日吉の職人さんは意匠を凝らす工夫に長じていたそうだ。今では美山のほとんどの茅葺き屋根が、日吉流のしゃちほこ型のユキワリになっている。かやぶきの里として有名な美山町の北村地区は、地域の伝統を守る意味合いであろう、今でもまっすぐな丸太がユキワリになっている。
このユキワリを、山で探す。ヒノキなど近隣どこにでもあるのだが、ユキワリにふさわしいものを探そうと思うと、これがなかなか難しい。
・まっすぐなもの
・太さがちょうどいいもの
・倒す作業が可能なもの(近くに電線がない、など)
・トラックまで運び出せる位置に生えたもの
諸条件が揃うものはなかなかない。よく手入れされている山であればこそ、細いヒノキは間伐されていて皆無だったりする。同じ程度のものを最低2本見つけなければならないことも厄介だ。
斜面に生えたヒノキが、雪の重さで根曲がりになったものを使う場合もある。パイプ型に曲がった部分を、そのまましゃちほこ型の部分に成形するのだ。しかしこれに適したヒノキは見つからなかった。ので、今回は根っこそのものを利用する方法を選んだ。
広葉樹と違い、ヒノキの根は浅い。数十センチ掘ると四方に根っこが広がっている。これを露出させて掘り倒し、根っこにかけてのカーブを利用して成形する方法だ。この方が、ギュッと鋭く反り上がった形を作り出せる。
掘り出す作業は骨が折れる。地中の様子は分からないので、容易に掘れるか、困難を極めるかはやってみないと分からない。そして、ある意味狙い通りなのだが、ゲリラ豪雨にやられた。バケツをひっくり返したような土砂降りだ。屋根をいじってなくて良かった…と思いつつ、腰の深さまで掘った穴の中で根っこと格闘している自分は、果たして勝ち組と思っていいのか悲しくなる…。
掘り倒すことに成功したら、さっそく皮を剥いてしまう。本当は木を伐る旬は秋以降なのだと思うが、木に水気が多い今のうちなら、ツルっと簡単に皮むきが出来る。
ここまで出来たら、いよいよ成形する時までこのまま放置。残したままの枝葉から少しでも水分が抜けていくのを待つ。
長さに切って、成形を試みる時に初めて、この木がユキワリにふさわしい形をしていたかどうか判明する。欲しい場所に根っこがない、ということもザラなのだ。余裕があれば数本予備を用意しておきたいところだが、ずぶ濡れの山中では、2本完了した時点で心が折れた。
現時点での手応えとしては、ちょっとイマイチな形に思える。成形するのが楽しみ半分、不安半分というところ。
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