何かと特殊だった、そして長かった神社関連の仕事が終わり、何となく久しぶりな感じのする民家工事へ。工期に追われなくなったことで少し気が緩むものの、体を酷使していた分、実際あえて少しペースを落として仕事をしようと思う。
今回は一般的な美山スタイルの民家の現場。が、珍しい点が2点ある。
ひとつは"葺き降ろし"の屋根であるということ。現在の美山の茅葺き屋根の多くは、"下屋(げや)"または"シコロ"と呼ばれる、低い屋根が後付けされている。もともとの茅葺きの軒先を切り、緩い勾配の瓦やトタンの屋根を差し込んだ形で庇のように張り出させ、家屋の床面積を広げている。家が広くなる上に、葺き替えに手間のかかる茅葺き屋根の面積は減らせるのだから、当然のように普及したのだろう。
これに対し、葺き降ろしの茅葺きは、軒の断面も裏側の下地も、下ないし屋内から眺められる。雨の時には茅屋根からの雨垂れの様子が見える。本来の、絵になる茅葺きの形である。
それだけに、職人としては気を遣う。普段見えないはずのところがむしろ見どころポイントとなるのだ。いい加減な仕事は出来ない。
そしてもうひとつ、今回の軒の編みつけ部分には、"麻殻(オガラ)"が使われている。
編みつけとは、屋根下地に最初に材料を取り付ける工程であり、軒を支える土台となり、裏から見える化粧部分ともなる。大抵は選りすぐったまっすぐで丈夫な茅を編んでいくのだが、昔はこのオガラが多用されていたという。
オガラとは、麻の繊維を採取した後のいわば芯の部分だ。麻栽培が当たり前だった頃には麻繊維の副産物として容易に手に入り、こうして屋根材としても利用していたのだ。
オガラは硬く折れやすく、若干のクセもあり、あまり扱いやすい材料ではない。ただ、摩擦力が非常に強く、だんだんと重さでズレてくる・・ということもなく、また漂白したような白さが美しい。
今回の家は長らく葺き替えることなく、応急的な修繕を繰り返しながら長年やり過ごしてきた。すでに屋根面はボロボロではあったが、おかげでレアなオガラ編みつけが生き残ったのだろう。
軒の傷み具合は激しく、厚みに対して最深部であるはずのオガラも、かなりの箇所が腐食していた。再利用するにはまるで足りない。しかし、せっかく葺き降ろしでオガラ編みつけの希少な家である。何とかしたい。
お施主さんはそこにこだわらないと言って下さったが、ここはこちらのこだわりとしてサービスすることにした。幸い、オガラは少しだけ在庫していた。大事に取っておいたところで、本格的な屋根に使うには足りるはずもない。ならば、この上ない機会と思って気持ち良く嫁入りさせようと決めた。
久々に扱うオガラは、なかなかにお転婆だった。摩擦でズレないのが長所と言ったが、逆に後からの調整というものがしにくい。太く硬いので、ハサミでスパッと切り揃えることも難しい。そして、こちらがムキになってくるとすぐパキッと折れてしまう。
苦労した子ほど可愛いというが…。嫁入り後はおしとやかに、この屋根の看板娘となるだろうか。
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