vol.225 アサギマダラとフジバカマ

 体力と精神力を使い果たしながら収めた芝棟を見上げつつ、屋根を刈り込んで降りていく。芝を植えた以上、当分の間水遣りをしたいところなのだが、棟が終わったら屋根を刈り込んで降りていくのが手順。よりによって屋根が高く、足場をバラせばもう棟まで人為的に水遣りする術はない。どんどん遠ざかっていく芝棟をハラハラしつつ見守る。どうか時々雨が降りますように・・・。芝棟は何かと悩みの尽きない棟だったが、屋根屋の天敵である梅雨シーズンを前に、雨に対して前向きになれるのは良いところだろう。

 そんなことで、芝棟に何か植物を植えるなら、人による水遣りなどなくても耐えうる、乾燥に強い植物が適しているということになる。なおかつ季節によって色とりどりの花が咲くなら、なおのこと楽しみがあって良い。

 施工前の打ち合わせ時、お施主さんや他の職人チームに、"植えたいものがあったら言って下さい"、"適か不適か気にせずに、面白半分でやってみましょう!"・・・そう呼び掛けつつ、生真面目な自分自身はつい、芝棟の教科書通りの植物を集める。

 バランスの良いことに、"遊び心"アイディアの方は、お施主さんの方から出てきた。"フジバカマを植えて、アサギマダラが来るようになったら素敵"、と。

 アサギマダラとは海を越えて日本へやってくる渡り蝶で、美しい羽根を広げて美山町にも各所へ飛んでくる。そのアサギマダラを引き寄せるのが、フジバカマという花だ。成分の関係か何かで、秋の開花時に、日本に飛来してきたアサギマダラがフジバカマに群がるのが、ちょっとした風物詩になっている。

 神社の本殿・拝殿の芝棟に、初夏から色とりどりの花が咲き、最後は秋のフジバカマにアサギマダラが飛び回る…。まさに皮算用ではあるものの、何と素敵な発想だろう。ちゃんと根付くか分からない。枯れるかも知れない。花が咲くとしても数年後かも知れない。それでも、試してみるだけのロマンがある。

 

 昨年秋、本殿の杉皮葺きをしている時。お施主さんとのそんなフジバカマ計画のやりとりをふと思い出しながら手を動かしていた、まさにその時だった。1匹のチョウが、足場周りをヒラヒラ。屋根のシートやロープにとまっては、ゆったりと羽根を動かしている。

 (これ、アサギマダラじゃね…?) ・・・さすがに何かの縁というか、ゾクッとするような何かを感じながら、しばしその様を見つめた。手の届く近さをとまったり飛んだりすること数分間。かなり長い滞在。

 「来年フジバカマが植えられるってお聞きしたもので…。ここで合ってます?」…みたいな感じだろうか?人間界より先に、自然界でちょっとした噂になっていたのかも知れない。

 

 年月をかけて、刻々と変化していく芝棟。いつの日か、フジバカマが咲き乱れ、アサギマダラが飛び回る景色が見られるだろうか。