vol.212 股のぞき

 屋根仕上げの最後は軒刈り。ここの出来不出来で屋根の見栄えや、雨水の切れが変わる大事な部分。ひと刈りごとに現場のゴールへと向かっていく気持ちは悪くないが、個人的にはあまり好きでも得意でもない工程だ。

 軒刈りはたいていの場合、足場に座り込んで、目の高さほどにハサミを構えて、軒裏をのぞき込むような姿勢で刈り込んでいく。高さが合わなければ、地上から脚立に乗って刈ったりすることもあるが、足場に座るか脚立に立つかの違いだけで、上半身の姿勢は同じだ。全国7~8割くらいの職人さんは、そのスタイルではなかろうか。(そもそも刈らずに叩いて仕上げる、といった場合もある)

 一方自分は、かつて美山で主流のやり方だったという“股のぞき”のスタイル。今ではこの方法で刈る人は少ないようだが、見習い時分にこれをひたすら教わった故、自分はこれが基本スタイルとなっている。前述の座り込み型もやろうと思えばもちろん出来るが、やはりしっくりいかず、結局股のぞきに戻すことの方が多い。

 

 このやり方の良いところは、軒の高さに対してハサミの高さを合わせやすいことだ。座り込むスタイルの場合、軒が低過ぎる場合は対応出来ないが、股のぞきなら頭とハサミの位置をギリギリまで下げていけるので、ちゃんと刈り込める。軒が高い場合は、ハサミを股下ではなく腰脇に構えればいい。

 一方欠点は、言うまでもなく姿勢がつらい。ハサミを持ち上げていない分腕は楽かも知れないが、足腰が厳しい。ほどほどの高さであれば何てことはないが、限界まで頭を下げた姿勢などで刈り続けていると、次の日は足がプルプルである。

 そして、人が見た時の姿勢の違和感。そんな格好で刈るものなの!?とよく驚かれる。淡々と座って刈っている人の横でひとりこれで刈っていると、余計に目立つ。これで慣れてしまっているから仕方ないのだが…。

 

 1~2年前、出張先で現地の職人さんと一緒に仕事をさせて頂いた時、当たり前のように股のぞきで刈り始めたのを見て、思わず感激である。おぉーあなたも!…と、ついに仲間を見つけたような気分。よかった、ひとりじゃない。

 『天橋立』とか技名を付けたら優雅だろうか…。くだらないことを考えつつ、腰を伸ばし脚をほぐししつつ、シャキシャキと刈っていく。