
茅葺き工事はゴミだらけで掃除も厄介なことで有名であるが、茅クズそのものは極めてエコな産業廃棄物である。今年に入ってからの工事のお施主さんたちは、皆上手に古茅を利用されていた。
1軒目では、茅クズは近くの果樹ゾーンへ。ちょうど春以降、ウメが生り年となっているその株元へ、たくさんの古茅が積まれることになった。茅クズを畑のマルチ代わりに再利用することは多い。作物が育つ土の保温や保湿、雑草抑え、雨による泥はね防止、通気性もある。そして、腐れば土そのものになる。
2軒目では、茅クズはダンプに載せて近くの田んぼへ。裁断されて小間切れとなり、近くの牛舎から運んだ牛糞と混ぜられ、やがて稲刈り後に田んぼに入れられる。普通、稲刈り時にコンバインで稲わらが裁断されて田んぼに肥料として還元されるのだが、こちらのお家では稲木干しをし、脱穀後の稲藁はぶんなで譲り受けているので、それを補う意味もあって牛糞入り茅クズを入れているのだそうだ。
3軒目では、畑を作る予定なので茅クズはここに積んで下さい、と希望があった。足場のすぐそばだったので大助かりではあったが、畑予定地はまばらに草が生えた程度の砂利地である。ここを畑として開墾するのは相当な労力がいるぞ…と思っていたら、積んだ茅クズが土化したところで、そのまま畑にするのだそうだ。現に隣には、数年前の葺き替え時に出た茅クズで作ったという小さな畑で作物が育っていた。なるほど、そんな手もあるのか。新しい茅ゴミより、刈った下草より、長年かけて屋根で朽ちた古茅が一番土になりやすいそうだ。葺き替えを行なった次の年には、決まってカブトムシの発生もすごいと話しておられた。
同じ古茅ゴミでも、公共工事であれば産業廃棄物としてトラック何台分も焼却場に運ばれ、税金で燃やされるのである。
屋根としての役目を終えた茅は、天に召されるのではなく地に還す。余すところなく貴重な資源を利用しようとする山間部の暮らしの知恵といい、本来当たり前であるべき希少な営み。
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