vol.210 角の位置

 今シーズンは妻面(小間)の葺き替え工事が続く。なんとなく気楽ではあるが、やりやすいかやりにくいかは、結局現場ごとによって様々だ。

 屋根を方位ごとに4面に分けて考えたとして、面積の広い2面が平面(大間)で、狭い台形の2面が妻面(小間)である。美山においては入母屋造りであるから、妻面は上部の三角の構造部(破風 はふ)までで葺き止まりとなる。

 平面(大間)は面積が広い上、最上部まで葺き上がった後は棟仕舞いが待っている。また、“屋根4隅の角は大間に属する”という定義があるから、角まで葺き替えねばならない。

 今回は妻面の葺き替えなので、棟仕舞いは必要ないし、角は解体せずに残し、新しく葺いた妻面と繋げればよいだけである。気楽というのはそういうことであるが…。

 

 左の角の軌道がおかしい。大間の表と裏、同じタイミングで葺き替えられたらしいのに、妙に左の角だけ頼りないと思っていたら、軒をスタートしてから角の位置がどんどん左へとズレていっている。結果的に妻面の葺き止まり近くに至る頃には妻面側の厚さがほとんどなくなり、解体時点で10cmを切っていた。そういえばこの辺り、以前にも雨漏りの穴埋めに応急処置をしに来たことがあったが、そもそもの厚みがなかったのだ。薄皮1枚で骨組みを隠している状態だった。

 なんでそんなことが、と思われそうなところだが、特に経験が浅いうちはわりとよく起こり得ること。骨組みの隅の通りに茅の角を積んでいけばよいのだが、2m近くある茅を1束載せれば、もう角の骨組みはほとんど見えなかったりするのだ。上の方はたいてい雨除けのシートが丸めてあったりして、よく見えないことが多い。

 そして、角を担当している人間が軌道のズレに明確に気付く頃には、難しい判断を迫られる段階にきている。すなわち、このままズレているなりにまっすぐ角をつけるか。おかしな軌道になっても無理やり修正するか。それとも、大いに遠回りになること覚悟で下から直すか。

 左の角はまっすぐに、骨組みとズレた軌道で最後まで葺かれていた。大間の工事としてはそれで一応終えられただろうが、妻面を葺く今回は困る。仕方ない、普段ならせいぜい差し茅でふくらませる程度でよいところを、角そのものの位置を無理やり右に少しずつ修正しながら、葺き替えた妻面と繋げていった。

 

 とりあえずでも終わらせてしまえ、という状況が時にあることは大いに分かるし、それで良しとは思わないものの、諸々の現場都合で仕方ない時もある。それは共感する。ただそれはそれとしても、手抜きやその場逃れで終わらせた屋根のひずみというものは、しっかり次の工事に響いてくる。そのことをまざまざと思い知る。今日まで進めてきた自分の仕事はどうだろうかと、思わず足元を振り返ってしまう。次は知らない誰かの仕事のせい、には出来ない。