vol.209 シン-カブ-オサエ

 茅葺き職人は雨の日は作業が進まなくて大変。そう言って同情して頂けるのは恐縮なのだが、雨の日=休みと思われてしまうとやや心外でもある。

 “雨の日にしか出来ないこと”というのはあまり多くないが、“雨の日でも出来ること”は山ほどある。そうした仕事を雨の日にとっておいて、雨の日でも何かしら仕事が前に進むようにするのだ。

 気付けばドッサリ溜まっている事務仕事などは当然ながら、足場の設営や解体、屋根裏の掃除や縄括り、倉庫での材料の積み込み作業など、雨の日は雨の日で、職人は忙しい。

 

 今回は美山の茅を使って葺く屋根。だから葺き方も美山流に、シン-カブ-オサエ、でいく。

 呪文のようだが、切り茅を混ぜた一般的な茅の並べ方だ。美山の茅は基本的に束にした時に胴張りな形になるから、長いままのものだけを並べたらえらいことになりかねない。つまりは、短い材料を織り交ぜる必要がある。そこで、胴張りの部分で上下に、穂先側(シン)と根元側(カブ)に切り分ける。“オサエ”は、切らずに長いまま使う茅のこと。これらを織り交ぜ、状況に合わせつつだが基本的に6層構造…“シン-カブ-ナカオサエ、シン-カブ-オサエ”で1段葺き上げる。こうして最終的な茅の勾配を理想的な状態へと持っていくのだ。

 これを現場で切りながら葺き進めるのはなかなかに辛気臭い。そんな時に雨が続くなら、倉庫で一気に刈り溜めてしまう。そもそも冬に刈り溜めた茅は、こうした時のために同じ長さ、同じ質感のもの同士をまとめて大きな束にしている。それをまとめて切ってトラックに積み込めば、大量の切り茅を現場に投入出来る。

 そんなわけで、時々雨の日も上手に挟むと、現場の作業効率も良くなり、気持ち的にも何となく一息つける。晴れ続きに越したことはないが、ついつい全力で走り過ぎ、体に無理もきてしまう。何事もバランス。“ハレ-クモリ-アメ、ハレ-クモリ-ハレ”…そのくらいがちょうどよいか。