vol.190 板ナシの茅並べ

 今回の現場は、お施主さんが長年刈り溜めた茅を使う。美山の茅とよく似た、秋刈りの葉っぱ交じりの茅。

 差し茅などの修繕ではよく使うが、葺き替えでこの手の茅を使うのは久しぶりな気がする。

 

 普段自分が使うのは、阿蘇などから仕入れた葉っぱの落ちた軸ばかりの茅だ。葉っぱがない故、お互いが摩擦でこすれることなく、滑りやすい。だから、並べる時は板を立てて堰き止め、仮押さえしてから、まとめて屋根勾配に叩き揃える。我々の世代の職人は、おそらくこの手法ばかりを教わってきているのではないかと思う。

 対して、家主が刈り溜めた葉っぱ交じりの茅を使うことが多かった頃に修業した世代の職人は、板など立てないで、茅を一層ずつずらして並べていた。摩擦がきく葉っぱ付きの茅でないと難しい手法ではあるが、葉っぱがついていれば簡単というわけではない。各種類の長さの茅の配合を調整し、正しい茅勾配になるよう並べて、またどの茅もまっすぐに正しく揃えて並べることで、初めて滑り落ちないようになる。

 

 修業時代、しばしば親方からそのことを言われた。今の若い職人は板を立てて並べることしか知らない(=何も考えずに並べても何とかなる)から、気の毒だ。自分たちの世代は、徹底的に教え込まれたから、茅が滑らない正しい茅勾配が手に叩き込まれている…と。

 ただ、これはハッキリ言って仕方がないことだ。今どきの若者にスマホの悪影響を訴えたところで、今の時代に生まれた以上、当たり前の定義が違うのだ。スマホの存在は若者のせいではない。同様に、仕入れた葉ナシの茅を板で並べる世代に修業した我々は、今時の若い職人は…と言われても、我々の責任ではない。

 

 ただ、チャレンジするチャンスがあるのにやらないのは違う。それは自分の責任となる。板を立てた方が間違いはないが、葉っぱの茅で並べるなら、板ナシにチャレンジ出来る希少なチャンス。不慣れなリにもやってみる。

 やってみたところで、どのラインが正解なのか分からないところが悩ましいところだが、まずはやってみることが大事。チャレンジ精神だけは、忘れないようにしなければ。