vol.186 始まりの場所

 昨年末最後の仕事は、今シーズン最後の茅刈り。慌ただしい年末だったが、どうにか例年並みの茅が刈れた。またまだ茅はたくさん生えているが、さすがに茅刈りばかりもしていられない。

 

 最後に茅刈りをした場所は、実は数年前、初めて茅刈りを始めた場所。地主の許可を取り、記念すべき初めての"ぶんな産の茅"を刈った場所だ。

 茅を刈らせてもらっている場所は点在していて、全ての場所には便宜上の呼び名を勝手につけている。この場所は"仮小屋の下(しも)"。仮小屋の上(かみ)もあるのだが、この2年ほどは手が回らず刈っていない。

 年末、最後の茅を刈り終わる…すなわち、"仮小屋の下"の背の高いススキが全て刈られて更地のようになると、急にこの"仮小屋"が姿を現す。

 

 独立して仕事が完全に途絶えていたあの冬も、雪の少ない冬だった。仕事がなく、雪がない、となれば…。直視したくない現実から逃れるように、1人で茅を刈り始めた。1本1本の茅束に、どうかこれが仕事で役立ちますようにと願い…もはや祈りを込めながら。

 仕事が途絶えているのだ。茅なんか刈っている場合ではない。営業に行くなり、誰かを頼るなりせねば!それも一刻も早く!…分かっている、分かっているけど、軽い鬱状態に陥り、それが出来なかった。それでも何かしていなければ耐えられず、茅を刈っていた。

 刈った茅を保管する場所もなかった。そこで目に留まったのが、今まで気にもとめなかった川沿いの廃屋だ。鮎釣り客がシーズン中の仮住まいとして利用していたらしいが、とうの昔から廃屋となっており、もはや家の半分は崩れ、獣の巣と化していた。

 茅場のど真ん中であるし、誰に迷惑をかけるでもなく、ちょうどいい。とりあえず仮に、ここに茅をしまっておくことにした。台風で飛んでいる屋根をトタンで仮にふさぎ、朽ちて抜けている床を畳で仮に穴埋めし、屋内に蔓延る植物を除去し、動物のフンを片付け、危険なガラスなどをどけて動線を確保。かくして、いろんな意味での"仮小屋"が出来上がった。

 

 今冬の茅刈りは"仮小屋の下"が最後となったから、1年の仕事を終えた達成感とともに腰を伸ばした時、目の前にその仮小屋が佇んでいた。

 仮小屋を利用したのはあの冬だけである。すでに再び進入するのは困難なほどに荒れている。だけれど、ぼんやり眺めているといろんな感情が蘇ってくる。

 あの時の自分は褒められたものじゃない。だから、振り返ってもよく頑張ったな、とは思わない。けれど、よく乗り越えてくれたな、とは思う。今も決して楽ではないけど、あの時から現在までたすきが途切れずに繋がったことは、紛れもない事実なのだから。

 

 仮小屋は朽ちていくが、そこから始まったストーリーはまだまだこれから。思い出話に浸っている間にも、あの時の自分が守ったたすきが、この肩に掛けられていることを忘れずにいなければ。

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コメント: 2
  • #1

    田中稔 (水曜日, 10 1月 2024 10:18)

    できる限りの後方支援は、させていただきます

  • #2

    ぶんな (水曜日, 10 1月 2024 22:14)

    田中さんありがとうございます!
    いやいや、ものを書くとついつい暗い文章になりがちなのが昔からの悪いクセです�。おかげさまで元気にやっております。