vol.182 焦りと冴え

 気付けばもう冬間近。毎年加わらせてもらっている寺社のしめ縄製作の期間も終わり、今年の屋根仕事も終盤を迎えている。

 1年の仕事の中でも、自分一人ではないからか、比較的気負いなく過ごせるのがしめ縄製作の期間。だから、"しめ縄期間中に進めよう"、と思って1年間溜めてしまった事務仕事や検討事項がたんまり。毎年のことなのに、しめ縄製作中はやはりしめ縄に最大集中してしまい、他のややこしい事案などほぼ進むことはない。

 結局、子どもの頃の夏休みの宿題と何ら変わっていない。やばい、何も終わってないと焦りながら、茅葺きの現場に復帰。

 

 あまり時間をかけられない、短期決戦の現場。人や車の出入りが激しいので、茅クズが散らばったり、交通の邪魔になるようなことが起きないように気を遣わねばならない。茅葺きの現場において、これらをキッチリ守ろうとすることはかなり厄介である。足場の設営に神経を遣い、時間がかかる。

 屋根は小さいが、面積と難易度は比例するわけではない。むしろ、軒付けをしながら棟納めのことを計算しなければいけないなど、難所の同時攻略をせねばならない。

 おまけに針受けが出来ない。うっかり針を深々と刺せば、化粧の杉皮野地を突き破ってしまう。

 頭をフル回転させ、いつもよりさらに二手先まで先読みして仕込んでおかねばならない。現場へ向かう車内も、脳内は一人作戦会議である。

 加えて1年溜めてしまった宿題も頭にのしかかる。思考があっちへ行きこっちへ戻りしながら、数分おきに振り出しに戻る、を繰り返す。

 

 いったん落ち着こう、そしてとりあえず手を動かそう。何かきっかけがあるのかは分からないが、時々ひらめきの波もやってくる。"お、それはナイスアイディア!" "いやぁ、我ながらさっきの判断は英断だった…"。・・・どこにそのスイッチがあるのか分からないのが残念。

 焦っていようが冴えていようが、時間の流れは同じ。宿題は無視出来ないが、無駄に焦っている時間のないよう、時には頭を空っぽにする開き直りも必要かも知れない。