vol.180 曲線の表現

 あれこれと苦戦しつつも、どうにか工事終了。やはり煙を上げているお家だからだろうか、上に行くにつれ年月のわりに屋根の傷みは少なく、下から葺いた新しい屋根とうまく繋げることが出来た。

 

 イギリス式の葺き方による屋根。手法もさることながら、完成形に柔らかい曲線が見られるのも特徴だろう。

 日本式の茅葺きであれば、職人の腕の見せ所のひとつはまっすぐなラインだ。草で出来た屋根でありながら、軒やケラバのラインが、豆腐を切ったようにピシッとまっすぐに仕上げられている、というのが格好良さだ。さらに格式を持たせるように、角だけラインを反り上げたりする。

 それに対して、ヨーロッパの茅葺きは曲線美による柔らかい、可愛らしい表現の屋根が多い。葺き方に無理をしていない自然な表現、とも言えるかも知れない。(逆に言えば、日本の茅葺きの長く張り出した切れ味のある角の表現などは、不可能を可能にした技術の表現とも言える。)

 

 曲線…丸く仕上げる。簡単なようで、なかなか難しい。曲線なので、糸を張って目安にするわけにもいかない。

 ここはいつもの心掛け。"悩んで止まるより、手を動かせ"である。頭で考えて出ない答えも、技術の染み込んだ手に任せておいたら、意外と形が見えてくるのだ。

 …が、一旦離れた場所で屋根をチェックしようとして、ズッコケそうになる。

 手が勝手に、無意識に、直線(もしくは日本風)を表現してしまっている。こうなっていないと気持ちが悪い、という職人としての手のクセなのだろう。

 今回は自動ではダメだ、手動(頭で意識して)でやらねば。自分が海外の屋根の写真を見て、イギリスっぽいな、と感じているのはどこなのか。何度も、(これじゃ日本風そのものだな・・・)と首をひねりながら、最後までああでもないこうでもない、が続いた。

 

 いろいろ苦労したけれど、面白い現場だった。変わり種の仕事をすることの少ない自分だから、たまにちょっとこういう刺激のある現場もあると楽しい。

 そういえば、ひとつの現場が終わったら2~3日休むという職人さんの話を聞いたことがある。その現場のクセを無くしてから次の現場へ向かうためだと。あまり共感したことがなかったが、今は何となく分かる。今、丸く柔らかく仕上げる、という意識にだいぶ振られている。即座に寺社仏閣やお茶室系の現場に向かったら、イギリス風が随所に出てしまうかも知れない・・・。