vol.179 四苦八苦

 例え、"慣れ親しんだいつもの屋根"であっても、現場ごとに何がしかの問題や悩みは発生するものではあるものの…。今回のイギリス式、未知の屋根はやはりなかなかに厄介。面白さ、興味深さは尽きないが、何せ進まない・・・。

 完全な葺き替えなら、全てリセットして日本のやり方に戻せばいいだけである。一般的な修繕方法の"差し茅"であっても、やることの理屈は一緒だ。

 しかし今回採用した工法は"さげ葺き"。これとイギリス式との相性が悪かったようだ。さげ葺きは既存の屋根を1段ずつ半解体しながら、新しい屋根を1段ずつ薄く葺き上げていく。イギリス式を解体しつつ日本式で追いかけるわけだが、どうにもこのリズムが合わない。

 そしてイギリス式の特徴である、鉄筋とフックによる茅押さえ。日本であれば竹と縄の役目である。縄を下地に回して竹を締め込む、という日本式に対し、イギリス式はカギ状のフック(呼称は分からないが、テントのペグのようなもの)を下地に打ち込み、それで鉄筋を押さえるのである。これがどうにも抜けないし、竹と縄のように適当に切って取り除く、ということが出来ない。

 鉄筋は90度に曲げて角を回り、隣の面に繋がっている。だから角の鉄筋は取り除くわけにいかず、適当な位置で切断するしかない。これが困った。さげ葺きは半解体につき、鉄筋を露出させられない。既存の屋根をこで上げ、上半身を押し込み、クリッパー(金属切断用の道具)をねじ込む。が、9mmの鉄筋である。体重をかけてようやく切れるものを、茅の中に手と頭だけ突っ込んだ状態で切断せねばならない。あーでもないこーでもないと体勢を変え、ようやく切れた時には全身の力を使い切って疲労困憊である。電動のグラインダーを突っ込んで切ればいいか、と思ったりもしたが、茅の中で火花を散らせるわけがなかった。

 さらに、出窓の存在。茅葺きで難しいのは角なのだが、出窓の両脇があるゆえ角が4つになったようなもので、出窓そのものの屋根もいっぺんに葺いて上がったり出来ない。

 

 そんなこんなで、作業の進行スピードがかなり遅い。あぁやりにくい…と思うも、おそらく、イギリスの親方も同様な想いをされたのだろう。イギリスは分からないが、日本の茅葺きの骨組みはグネグネした雑木が不規則な間隔で並んでいたりする。下地めがけてフックを打ち込むのに、いちいちイライラしたのではなかろうか。

 

 工期に追われる現場でなかったことを本当にありがたく思う。大変ではあるけれど、興味深いことは尽きないし、当時を想像して様子を思い浮かべるのも楽しい。当分、頭の中の考察ネタが尽きそうにない。

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コメント: 2
  • #1

    佐伯 弘 (月曜日, 16 10月 2023 10:09)

    イギリス式茅葺きの仕掛け人だった佐伯弘と申します。大変苦労されたようですね。本当にご苦労様でした。イギリス式の補修は、どのようにするのか、興味があります。今後の日本茅葺きの進化は美山の職人さんにかかっています。陰ながら応援しております!

  • #2

    ぶんな (火曜日, 17 10月 2023 08:48)

    佐伯様、コメントありがとうございます。お陰さまで私も貴重な体験をさせて頂きました。美山でイギリス式の屋根を見事葺き上げた職人さんの勇気と努力にも脱帽です。