vol.178 出窓のある茅葺き

 2階部分を養蚕などに利用していた地方の茅葺きには、採光のための窓が設けられている場合がある。白川郷のような切妻(屋根が2面)であれば、妻側の壁面に窓を設けやすい。

 しかし美山近辺の屋根は4面とも茅葺きであり、大きな破風はあっても、その役割は換気であって採光ではない。そもそも2階は刈り溜めた茅の保管場所であったから、明るさは求められていない。

 それでも美山町内には、窓付きの茅葺き屋根がしばしば見られる。これはもともとそうだったわけではなく、改修の過程で採光のため設けられたものだ。

 

 出窓付きの茅葺きはなかなかオシャレだ。ともすれば暗い、重たいイメージになりがちな茅葺きに、明るく軽いイメージを与えてくれる気がする。

 しかし、実際には茅葺き屋根にとって、出窓は明確な弱点である。茅葺きの耐久性は、乾きが良くて、水切れが良くてなんぼである。出窓上の屋根面は、他の部分に比べてどうしても勾配(角度)が緩くなる。瓦やトタンと違い、茅葺きはあまり勾配が緩いと水を切れずに、屋根内部へと浸み込ませてしまう。それゆえ、早く痛む。

 側面も同様だ。出窓によって、本来なかったはずの"谷"のような部分が出来、水の流れがある筋に集中してしまう。やはり他の部分より先に痛みやすい。

 出窓の上がトタンなどの屋根材で、両サイドが木部等で壁になっているのなら、施工が少々ややこしいだけで弱点とはなりにくい。

 しかし今回は上も両サイドも全て茅である。だからこそ描かれる、柔らかな流線形が美しいのだが、全てが弱点になってしまうのは否めない。

 

 今回は出窓中心に痛んだ下半分を直し、まだ元気な上部へと繋げていく工事。出窓の攻略が悩ましいのだが、こちらの現場にはもうひとつ未知の攻略項目がある。

 こちらのお家は、かつてイギリスから来た職人さんが、イギリス式のやり方で葺いた茅葺き屋根なのだ。経緯は割愛するが、非常に珍しい屋根なのである。

 自分ごときが触ってよいのだろうか。そんな気持ちもあり、初めて相談を受けた数年前は、当時イギリス人の職人さんとともに屋根を葺いた先輩職人さんに、話を振ったりもした。

 しかし時が経ち巡り巡って、結局自分のもとに戻ってきた。ご近所でもあるし、ここまで来たら縁というものだろう。はばかりながらも、触らせて頂くことにした。

 近所の本家日本流の茅葺きを差し置いて、驚くほど長持ちしているイギリスの親方の屋根である。謙虚に、胸を借りるつもりで。異国式の茅葺きのタイムカプセルを開けてみよう。

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コメント: 2
  • #1

    杉原バーバラ (水曜日, 11 10月 2023)

    Maggieの家‼️
    懐かしい!二日程でしたがRoger さんが葺いているとき見学させて貰いました。(だいぶ前にFB シリーズに投稿)その後も知っているだけにあの家がどうなっているだろうと気になっていました。屋根修理はおっしゃるように大変だと思いますが頑張ってください。修理中の写真を楽しみにしています。

  • #2

    ぶんな (水曜日, 11 10月 2023 21:17)

    バーバラさんありがとうございます!手強いながらも面白い現場です。