vol.176 憤り

 棟際で発生している、茅の抜け落ちの修繕の依頼。数年のうちにズリズリと、まとまって滑るように抜けてきたようで、見に行った時には、辛うじて屋根にとどまっているというくらいあからさまに、ゴボッと抜け落ちる寸前のような状態になっていた。

 カラス等のいたずらで茅が抜かれることはよくある。外的要因がなくても、混じっていた短い茅や、馴染み切らなかった茅などがスルスルと抜けてくることはある。

 しかしこのようにゴボッとまとめて広範囲で抜けてくるのは、何か問題がある。屋根全体が末期的に痩せているのならともかく、そういうわけでもないのだ。

 

 手をつけてみて、思わず舌打ちする。棟の下1mほど、つまり最後の3~4針くらいの間、押し鉾(並べた茅を抑え留める細い竹)が一切ない。おまけにごく短い茅ばかりしか入っていない。このゾーンの茅たちは、何も固定されておらず、ただ摩擦でそこに留まっていただけということだ。まとめて抜けてきて当然である。

 

 最後の葺き止まりの辺りは、なるべく細かく葺き上がるのがセオリーだ。気持ち的には、一気にゴールまでジャンプしたいところだが、我慢して細かく進む。そうすれば断面図的に、終盤の押し鉾が棟の内部(=安全地帯)に収まり、修繕の際に役に立ってくれるのだ。そこを我慢せずに一気に葺き上がってしまうと、押し鉾が存在せず差し茅が出来ないゾーン、が多くなってしまう。

 もうひとつ、終盤とはいえ短い茅しかないのも極端だ。棟際であっても、可能な限り長い茅も間に挟まないといけない。短い茅ばかりで大きく葺き上がれば、当然抜けやすくなる。

 

 この屋根は数年前に修繕されている。おそらくその時も、押し鉾がないままただ古い茅を引き出し、新しい切り茅を差し足す、だけをやったのだろう。古茅をこで上げて、隙間から竹を差し入れて縫い直す作業は、ハッキリ言って面倒臭い。だからおそらく、端折られたのだろう。

 

 当時の状況や事情は知らない。限られた時間や予算の中で、とりあえず雨漏りだけとめたい、といったことだったかも知れない。自分にも心当たりが決してないわけではないから、偉そうなことは全く言えない。

 想像の域を超えないが、それでも、葺いた職人も修繕した職人も楽をした結果がこの屋根だと思うと、どうしても憤りを覚える。手を抜けばやはりこうなるのだと、我が身に言い聞かせねばいけない。

 

 次の日に向かった現場もやはり2回目の差し茅だったが、こちらは前回の職人さんの律儀な直し方がハッキリと分かる屋根だった。

 自分が手をつけた屋根も、いつか別の職人に開封される日があるだろう。心掛けは今からでも遅くはない。上手とは言わないまでも、"雑、手抜き"と思われない屋根を作れるようにしなければ、と思う2現場だった。

コメントをお書きください

コメント: 2
  • #1

    Barbara Sugihara (火曜日, 12 9月 2023 05:24)

    最高な学びの場でしたね。猛暑中お疲れさまでした。

  • #2

    ぶんな (火曜日, 12 9月 2023 20:44)

    バーバラさん、ありがとうございます。本当に、毎日勉強です。