vol.174 短期決戦

 予定上、今年最後の出張。毎年のことながら、1年間のおよその仕事スケジュールは立てていても、現場ごとに生じた遅れが積もり続け、スケジュールはあってないようなものになってくる。どうにでもなるように、と思って空けていた1ヶ月程度の予備期間も、予定の遅れによってたいていすぐに食い潰してしまう。

 そんなこんなで、すぐ行くつもりでまだ行けていない小規模な工事がたくさん。長期間の工事がようやく終わったタイミングで一気に片付けようと意気込んでいたが、8月は仕事以外も何かとスケジュールが埋まりがち。仕事予定をパズルのように当てはめていくが、小さな工事、短期間の工事こそ、遅れが生じると予定の組み直しが非常に面倒になる。まして出張となれば余計である。何としてでも予定通りに片付けたい。

 

 周囲を湿りがちな森に囲まれ、コケだらけになって棟が崩れかけている現場。予算的に葺き替えは厳しい。かと言って、これほど周辺環境が茅葺きに不向きな日陰だらけでは、中途半端な修繕は費用対効果が薄いと思われた。見栄えを気にしておられたお施主さんの希望も踏まえ、今回の工事はあくまで最低限、棟を直し、コケに覆われた屋根をきれいにし、傷みがひどい箇所のみ処置する、とした。いずれは葺き替えが必要になることは避けられないが、それを少し先延ばしする延命処置。

 棟直し、屋根の最低限の修繕、下屋の杉皮葺きの修繕。小さな屋根だから、1週間あれば充分終われるはず。というか、1週間以内にケリをつけなければ、来週の予定に遮られて完成がだいぶ先延ばしになってしまう。出張仕事であるから、たった1日だけ間に合わなかっただけでも、その影響は大きくなる。

 なのに、ピンポイントで雨マークがズラリ並ぶ。初日と2日目は猛暑、あとは全部雨予報である。猛暑にあえいだ夏だが、こうなればどんなに汗だくになっても、カンカン照りの方がありがたい。

 荷降ろしを超特急で済ませ、棟を解体。新しい杉皮を被せ直す所まで終わらせる。あとは、雨の中でも進められないことはない。

 続いて屋根面の大量のコケと土を全て落とす。そして片っ端から掃除する。葺き替えではないから、屋根面を解体することはしない。だからコケ落としは雨の中でも出来る。しかし、カンカン照りの猛暑のうちにやってしまなわければならない。コケと土は、カラカラに乾いている時は軽いが、雨を吸い込んだら最後、同じ容積の水そのものとさして変わらない重さになってしまうのだ。そうなると、掃除だけで大変な重労働になってしまう。

 日数は充分足りるはず。天気は運に任せるしかない。あと自分に出来ることは、策略をめぐらせて段取りよく動くこと。これだけ雨の1週間になるなら、もはや開き直って頑張るしかない。