vol.173 数十年ぶりに光のもとへ

 トタンを被った茅葺き屋根の屋根裏に、たくさんの茅が収まっているという。その回収作業に同行させてもらった。

 脚立を使ってようやく出入り可能になる天井の狭い開口部から、屋根裏へと進入。ライトで照らしてもまだ薄暗く、舞い上がる粉塵で灯りも遮られがちになる。それでも目を凝らすと……。

 あるわあるわ、所狭しと積み上げられた茅が、奥行きも分からないほど屋根裏へ詰め込まれていた。これを全て外に出すのは骨だが、収納する作業はもっと大変だったろう。

 茅の束は概ね大きさが揃えられ、2束をひとつにまとめた形で統一されていた。何年もかけて溜めたであろう茅の束が、全てこの型に統一されているのだから、何となくお施主さんの性格が窺える。

 

 トタンを被せてから30年前後経っているという。屋根裏いっぱいに茅が溜まっていたことを思うと、おそらく直前まで、茅を葺き替えるか、トタンを被せるか、悩んでおられたのだろう。ここでも何となく、勝手な憶測ながら、お施主さんが抱えた苦悩が察せられる気がする。

 

 この茅は、トタンを被せる以前から屋根裏に存在したことになる。自分が生まれる前からかも知れない。ススキとしての命を終えた後、"茅"としての新しい生涯が始まる日を、屋根裏で数十年待ち続けた存在なのだ。茅に感情があったとしたら、トタンが被せられ希望が潰えてから三十数年。久しぶりに浴びる光と風の心地はどんなだろう。嫁入り先は変わることになるが、使命を全うする道筋が出来た。きっと茅同士、ワイワイとおしゃべりが止まらないことだろう。

 

 これもある意味、茅葺きの持つ循環サイクル。お施主さんの想いをのせた茅が、次の場所・人へと受け継がれる。