今回の工事は2面葺き替え。しかし他の2面ももはやコケだらけで、あまりいい状態とは言えない。かと言っていっぺんに4面工事するとなると費用が大きくなってしまう。
そこで今回は最低限の延命処置として、他の2面についてはコケ落としだけ行うことにした。
茅葺きが朽ちてくると表面が土化してくる→コケが発生する→水気を溜め込むようになり、痛みが加速する→土化がさらに進む→木が生え虫が湧き始め、鳥がついばみ始める…と、コケは茅葺き屋根にとって天敵である。苔むした茅葺きは趣きがあっていい、という感想ももっともなのだが、屋根の維持を考えると、趣きばかり大事にもしていられないのだ。
クマデでコケと土を豪快にはぎ落として、屋根の腐った部分をバリカンでそぎ落とし、なるべくフラットな屋根面になるように叩いて均す。仕上げにまた刈り込む。それだけで、少なくとも見た目上はかなりマシになる。
どうせコケはまた湧き始めるが、屋根が傷んでいくスピードをいったん緩めることが期待出来る。治療ではなく、本工事を先延ばしするための延命処置である。
ふと、葺き替えを行なった面と、コケ落としの2面に、あることが共通していることに気付いた。屋根の下部3分の1ほどはグズグズに傷んで、大きく溝が出来ていたのに、ある一定ラインから上は妙に古茅が元気というか、屋根の減りが少ないのだ。最初は前回葺き替え時の工法によるものかと思っていたけれど、各面で共通して同じ高さ、それも中途半端な高さで境界線が出来ているのは不自然だ。
もしや、と気付く。このお家は少しでも屋根が長持ちするように…と囲炉裏で煙を上げておられる。おかげで刈り込んでも屋根の色が黒いため、あまり処置したように見えないくらいである。
この傷み具合が変わる高さは、囲炉裏の煙が浸透する高さのラインだろうか? 煙は当然上へ上へと向かうから、屋根の下の方はあまり燻されない。それゆえ傷み具合が違うのだとすれば、いろいろと納得がいく。
なぜ下部だけが極端に傷んでいるのか?と思っていたが、逆だったのだ。屋根の上部だけ、囲炉裏のタールコーティングによって痛みの進行が遅らされているのだ。
あくまで仮説でしかないが、もしその通りであったなら、囲炉裏の煙による屋根寿命への影響を、初めて実感したことになる。これだけ違うのなら、行なう意味がある。もっとも、屋根の維持のためだけに火を焚き続けるのも不経済かも知れないが…。
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