vol.162 屋根に描くイメージ

 当たり前ではあるが、プレカットされた材木を組み立てるようにはいかないのが茅葺き。茅という自然材料はひとつとして同じものはなく、茅を載せる骨組みからして、たいていは雑木と竹で組み立てられた大まかな下地。

 職人が10人いれば十通りの茅葺き屋根が出来上がるだろうし、そもそも同じ職人が同じようにやっても、同じような屋根に仕上がるとは限らないのだ。

 その辺りが茅葺きの難しさであり、面白さ、奥深さである。屋根の葺き方を覚えるだけなら、数日も一緒にやれば覚えられるだろう。問題は、長持ちする屋根にするための勘所や、思い描いた通りの形に仕上げられるかどうか、といったところ。こちらは知識だけでは難しい。経験やセンス、果ては性格といった側面で、職人ごとに違いが出るところだろうと思う。

 

 お施主さんとの最初の話で、今回の屋根は、どちらかと言えば優しくやわらかな印象を持つ仕上がりにしようと決めた。建築用語的に言えば、てり(反った屋根)とむくり(ふくらんだ屋根)の後者を目指す。地元美山では、軒先の角を少しだけ反り上げることで、てりの屋根のような格好良さを持たせることが多い。その手癖を封じなければいけない。

 素人目にも分かるようなむくり屋根を目指して葺いたことはあまりない。(正直に言えば、意図せずむくってしまった屋根の心当たりはたくさんあるが…) 完成した屋根の形に対して、後付けで意図を説明することは簡単だ。しかし今回は最初にお施主さんに希望を聞いてしまった。やってみるしかない。

 ポイントは下地の工夫、捨て茅(のべ茅)の入れ方の工夫、葺き茅の選び方の工夫、そして当然目視による屋根勾配の小まめなチェック。これも茅葺きの難しさだが、仕込んだ作戦に即効性はない。ジワジワ効いてくるという特性がある。一人で進めているペースで言うなら、今日進めた屋根の仕上がりは、一昨日の作業で仕込んだ戦略の結果なのである。うまく作用しているか、軌道修正が必要か、2手先を読みながら手を動かさなくてはいけない。

 

 大まかに葺いて、仕上げの刈り込みで思い通りの形にすればよいという考え方もあるが、それは最小限に抑えたい。文化財ではないのだ。完成形が全てではない。少しでも長持ちする屋根を第一に考えるなら、刈り込みは最小限であるべき。

 新しく葺き替えられた威厳ある屋根姿と、そこからどことなくにじむ柔らかさ、優しくあたたかみのある雰囲気。そんな屋根になればいい。どこまで近付けるか分からないが、何事も挑戦。イメージが頭にあれば、手先は無意識にそれを紡ぎ出す。言うなれば、これは自分に任せてもらえた大きな作品。楽しまなければ損だろう。

 建築、芸術、工芸…。茅葺き職人とは、つまり何だろう?やっぱり、奥が深い。

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コメント: 2
  • #1

    Barbara Sugihara (月曜日, 27 2月 2023 06:29)

    屋根屋さんと屋根の理解を深ませる素晴らしい文章ありがとうございます。
    お体を労って肩を治してください。

  • #2

    ぶんな (水曜日, 01 3月 2023 13:12)

    バーバラさん、ありがとうございます!