vol.161 よみがえる結(ゆい)

 年度末、誰もかれも忙しく、屋根葺きの職人を集めるのもなかなか難しい。自分は普段からひとりで屋根を葺いていることが多いからと割り切っていたが、一人では何かと困るだろうと、お施主さんが下手間を集めて下さっている。ありがたい今の仕事現場である。

 お施主さん自身はもとより、そのご家族親族、近所の方、職場のつながりの方、茅葺き作業体験を求めて来られる方……所属や関係性はそれぞれであるが、毎日だれかしらが現場を訪れて下さり、動ける限りの時間お手伝いをしていってくれる。

 職人ひとりに対して、茅葺き作業初体験の手元が4~5人もいたりする状況に初めは戸惑ったものの、やはり皆さん人生経験が豊富である故か、学生アルバイトのように指示がなければボーっとしている、というようなことがない。ひとつひとつ仕事を覚え、手待ちの時間があれば、今何かをすべきか自身で考えて動いてくれる。おかげでこちらは屋根葺きに没頭出来る。

 

 これだけの人たちが現場に関わってくれる。いい意味で、たくさんの人を巻き込んでいる。仮にお金をそれなりにつぎ込んだとしても、なかなか出来ないことである。お施主さんの行動力と、日頃の人徳の賜物なのだろう。

 

 きっとこの茅葺きは、関わったたくさんの人たちの思い出の詰まった屋根になる。やがて朽ちていくまでの二十年ほど、きっと施工中の思い出話に花が咲く、共通の話題になるだろうと思うと、いい現場に立ち会っているなぁとしみじみ思う。プレッシャーも小さくないけれど、自分もこの"結(ゆい)"の輪の中にいる。いずれ"あの時"と思い出される"この時"を楽しもう、そう思う。