vol.156 全滅

 この時期常々ありがたいと思えることは、自分の住む集落周辺で茅刈り出来る環境があること。材料の確保という点だけでなく、ススキの群生地で穂がそろって風になびく様、陽光を照り返す様は本当に美しい。

 

 高原などの広大な茅場と違い、ぶんなで茅刈りをさせて頂いているのは主としてとびとびの小さな土地だ。放棄された空き地であったり、昔田畑であったところだったり、河川敷であったり、様々だ。

 放っておいても生えてくるのが茅(ススキ)のいいところなのは間違いないが、手を入れるに越したことはない。昨年、初夏に伸びかけた蔓植物を丁寧に除去した茅場は、その後蔓に絡まれることなく伸び、まっすぐきれいな茅を刈ることが出来た。今年もぜひやろうと思っていたが、時間がなかった。せめてと思い、毎年刈る場所の中で一番狭い茅場のみ、蔓の除去を行なった。

 ところが、結果から言えば今年はその茅場での収穫はほぼゼロだった。

 ススキの穂先が全く伸びていない。よくあることだが、まさか9割5分の茅がそのようになるとは。短過ぎて茅として使えない。昨年もあまり良くなく、半切りした茅だと思って使うことにしたのだ。しかし今年はひどすぎる。切った茅だと思うにしても短過ぎてダメだ。

 先輩職人さんから教えて頂いたことによると、ある種の蛾の幼虫の食害によるものらしい。然るべき時期に野焼きを行なえば効果的かも知れないが、杉林に隣接している故、それも難しい。

 手間をかけた茅場に限って・・・とうなだれるが、狭い場所でまだ良かった。例え使い物にならなくても、野焼きが行えない以上、全て刈り取って除去しなければ、来年の茅刈りに差し支えるからだ。鎌を使わず草刈り機で刈り倒し、"茅"になり損ねたススキの残骸を、泣く泣く茅場から取り除いた。

 

 この茅場は、初年度は様々な植物が好き放題に立ち枯れした荒地だった。全て刈り倒し、低木も伐り倒し、ようやくここまで来たのだ。むしろ狭くてちょうどよい実験地と捉えよう。この場所で良質の茅が刈れるようになるまで、自然との知恵比べが続く。