vol.152 用心は、して後悔しろ

 週末・連休のたびに台風、豪雨。観光業で働く人は気の毒に…と思ったりするが、屋根屋にとってもかなり頭が痛い状況。仕事が進まない。家にいても、強い風雨のせいで屋根が気になって落ち着いていられない。

 工事中の茅葺き屋根は、シートで覆って雨漏りしないようにする。しかし、このシートというものは風に弱い。内側に風が入り込めばマントに早変わりし、重しに吊った足場丸太の2~3本など簡単に持ち上げてしまうのだ。

 だから、雨台風よりも風台風の方が正直怖い。シートが飛ばされてしまえば、茅をはがしてしまっている屋根は雨漏りし放題だ。

 

 シートのハトメ(紐を通す穴)を全て使って厳重にくくりとめても、あまり意味はない。強い風でシートが煽られれば、ハトメがシートから千切れるだけなのだ。強風の恐れがある時は、そもそもシートの内側に風が入り込まないようにする必要がある。シートを被せるというより、ラップで包むようにしないといけない。屋根のシートも材料のシートも、トラロープなどでぐるぐる巻きにして、そもそも風に煽られない形に整える。(後輩とはよく"ハムにする"と呼んでいた)

 

 安心と引き換えに、手間のかかる作業だ。そして用心した時に限って、幸か不幸か、風雨が大したことなかったりする。厳重に施した養生を解除するのも手間なのに…。

 けれど、以前先輩職人さんから教えて頂いた言葉をいつも思い出す。用心はして後悔しろ、と。用心不足で後悔することになるよりよほど良いではないか。

 用心はして後悔しろ、用心はして後悔しろ、と呪文のように呟き自分を慰め、そして溜め息をつきながら、今回も、幸い大したことなく過ぎた台風の後、無駄骨にも思えた台風養生を解除したのだった。