vol.147 分解修理

 茅葺き現場で『バリカン』と言えば、植栽の剪定作業などに使われる、ヘッジトリマーと呼ばれる機械のこと。これを茅葺きに応用して、ハサミの代わりに屋根を刈り込んだり、押切の代わりに茅を切り分けたりする。

 ちなみに屋根を刈り込んで仕上げることは『散髪』と表現されることがあるから、我々はハサミやバリカンで散髪する仕事をしているということになる。事情を知らない人が聞けば美容師さんだ。

 専ら古典的な道具を使って手作業で行われる茅葺きにおいて、バリカンは数少ない、近代的に機械化されたツール。邪道と思われればそれまでだが、使い勝手と効率がいいので、現場において極めて登場回数の多いアイテムだ。

 

 そのバリカンが、作業半ばでプツリと動かなくなってしまった。充電式なのだが、バッテリー切れではない。モーターがウンともスンとも言わなくなった。

 思い返して、あぁしまったと舌打ちする。間に合わせようと必死だった前回の現場の刈り込み時にも、調子がおかしかったのだ。少し動かすとすぐ過負荷による自動停止装置が働く。炎天下と長時間使用でオーバーヒート気味だろうかと気にしつつ、止まれないのでだましだまし無理やり使い続けたのだ。落ち着いたらメンテナンスしなければと思って、すっかり忘れていた。

 

 作業段取り的にこれはマズイことになった・・・と焦りながら、持ち帰って整備してみるも、その程度で動くはずがない。もう少し、もう少しだけ…と、ヒヤヒヤしながら可能な限り分解してみる。余計な事してしまう前にプロに修理を頼め、ともう一人の自分が訴えるのを気にしつつ、もうちょっとだけ…の分解が続く。やがて、知恵の輪のように組み付いたカバー同士を外そうとしているうちに、急にパカンと全てオープンし、たくさんのパーツがその辺に飛び散った。やってしまった、どれがどこに収まるべきパーツか分からない。

 「お父さんそれ、元に戻せるん?」…暇つぶしがてらに覗いている子どもらの冷静な突っ込みに、さぁ。。。としか答えられない。

 

 ・・・結果的に、奇跡的に直った。

 内部まで混入した細かい茅クズが、もはやコルクのように固着して、モーターの周りにギッシリと詰まっていた。なるほど、これならば負荷がかかるどころか、まったく回らなくて当然だったろう。

 散らばったパーツもどうにか収まった。整備と組み立てが終わって、無事動くことが確認出来た時は心底安堵した。

 「動くようになったん? すげー!!」…子どもの尊敬のまなざしが少々気まずい。詰まったゴミを除去しただけであり、そもそものメンテナンス不足が原因である。まぁいいや、家庭内では"大抵のものを直してしまうお父さん"を演じておこう。