vol.112 針受けの出来ない屋根

 今回の現場は小さい休憩小屋。一人で対応するにはちょうどいいサイズと言える。しかし天井は杉皮で化粧してあって、屋根裏に入れない。お茶室など、見栄えに重きが置かれている建て物では、こういったことが多い。

 屋根裏に入れないとどうなのかというと、"針受け"が出来ないのだ。茅葺きは、屋根表と屋根裏とで2人一組になり、大きな針と縄を使って茅を屋根下地に縫い止めることで収めている。1人ならば一人二役すればいい。しかし屋根裏に入れないとなると、少々面倒なのだ。

 屋根裏に入らずして、茅を屋根下地に縫い止める方法。一見困難なようだが、経験・見聞を積み重ねれば、実は手段の選択肢は結構ある。自分の技術の引き出しの中から、状況に合った最善策のひらめきを得られるかどうかだ。

 難しいのは方法そのものより、"先読み"になる。針受けならばいつでもどこでも、相方に屋根裏に入ってもらえば可能だが、その他の方法は、一手二手前の段階で、仕込んでおく必要がある、というものが多い。つまり、常に二手三手先を読みつつ対策を講じ、自らが描いた読み通りに屋根を葺いていく必要があるのだ。なかなか神経を遣う。まして今回は修繕なので古い屋根はめくらない。だから屋根下地の状況は最初から最後まで見えない。いろいろと気は焦るのに、試されているような現場だ。

 

 年度末だからか何なのか、急に恐ろしく仕事に追われ出した。よその職人さんの手伝いはともかく、ぶんな単体の仕事は決して多くない。仕事の話が舞い込んでくるのは、神様に祈りたくなるほど嬉しい。が、いっぺんに重ねて降ってくるとつらい。体と脳みそをもうふたつずつくらい欲しい。体中がバキバキと痛い。眠りたい。夜更かしして朝寝坊して、真昼間からビール飲みたい…。

 しかし、同時にしみじみ思う。この先仕事のあてがない…貯金があと何ヶ月持つだろう…なんて状況で青い顔をしていた時期は、体力は余っていても、心がもっと辛かった。仕事があるって、忙しいって、そう言えるだけ事業者としては最高に幸せ。