vol.111 刈った茅の取り込み

 昨年刈り取った茅の、取り込み時期がぼちぼちやってきた。美山近辺では、秋から冬にかけて、雪が降るまでに茅を刈り取って、それからそのまま屋外に立てて春まで乾燥させる。

 乾燥させたいのに、冬の屋外で雨雪に晒す。不思議な気がしないでもないが、ある種の寒ざらし、フリーズドライといったところなのだろう。

 その辺に生えているもので商売が出来るのは幸せなことであるが、そう甘くもない。刈り取り、集め、束ね、乾燥。春になったら取り込み、改めて中まで乾かし、束ね直してようやく収納。かかる労力と時間、それだけ苦労して一体どれほどの屋根が葺けるだけの茅が集まったかと計算すると、なかなかに絶望的な気分になる。悲しいかな、"刈った茅"より"買った茅"の方が、質もコスパも良かったりする。

 それでも、秋に稲刈り、冬に茅刈り。そんな里山風景の中で働いて、一時的に赤字でも1年間で見たらトントンくらいになれるのであれば、そんな暮らし方をしていたい。そんな想いで、一昨年から続けている茅刈り。

 

 乾燥を終えた茅の束は、刈り取った時に比べてずいぶん軽くなり、きつく縛ったはずの紐も緩くなっている。晴れ続きでカラッカラになったところを取り込みたいところだが、悪天候でないと都合がつかないのが屋根屋の仕事。晴れた日にのんびり茅を取り込めるチャンスはあまりない。

 完全に乾ききっていない茅をそのまま収納してしまうと、蒸れて中から腐ってしまうことがある。お施主さんが用意した茅を使う際、束をほどいてみたら中身がバキバキに脆くなってしまっていることは珍しくない。だから面倒でも1束ごとほどいて、完全に中まで乾燥したことを確認してから収納する。実に、手間のかかる子なのだ。 

 

 しかしそれだけに、自分の手で刈って手間暇かけただけ、愛着もある。さぁこの茅たちは、どこの屋根に嫁入りすることになるかな。そんなことを考えながら、1束1束と向かい合う。