vol.104 道具の焚き上げ

 あっという間に年末。早いなぁと思うのは毎年のことだけれど、仕事も私生活も、年末年始に向けての準備が着々と進んでいるかと言うと・・・なかなか。悲しいかな、それも毎年のこと。小学生時代の夏休みの宿題から、どうってほど成長していない。

 

 茅葺き職人の道具は店頭に並んでいないようなものも多いため、多くは職人自身の手による手作りであり、個々のオリジナルモデル。自分の親方の模倣から始まり、反省感想を活かした工夫が加わり、次第によその地方の職人さんの要素が取り入れられたりしながら、自分なりの完成形を目指していく。ある程度の高みに至ると、模倣される側になる。

 そして、大抵木製である故、使うほど味わい深い趣きを醸し出すとともに、やがて摩耗・経年劣化して寿命を迎える。不慮の事故で破損してしまうこともある。新たな道具を作り出す楽しみもさることながら、愛着の沸いていた道具との別れは、一緒に乗り越えてきた現場の記憶とともに、なかなか寂しいものがある。

 役目を果たし終えた道具は、感謝の気持ちとともに燃やすようにしている。自分なりに焚き上げのつもりだが、宗教的な行事やスピリチュアルなことを思ってやっているわけではない。廃材やゴミとして処分してしまうのは、自分の中でやるせない。そんな気持ちがあるだけ。

 今年は"長板(ながいた)"と呼んでいる2代目の道具が寿命を迎えた。折れた柄を応急処置して何とか使っていたが、限界だった。一部パーツを3代目に移植して、2代目本体は焚き上げ。今までありがとうの気持ちを込めて。

 

 茅葺き屋根職人にとって、一番使用頻度が高いと思われる独特の道具も、間もなく寿命を迎えそう。命を吹き込み、命を還す。屋根も道具も、茅葺き仕事はその繰り返し。