vol.101 茅と瓦の取り合い

 瓦の屋根屋さんより問い合わせを頂いた。杉皮葺きだった部分を瓦に葺き替えるが、茅葺きの下に潜り込んでいく部分(取り合い)がうまく収まらない。邪魔な軒の茅を切り上げたいが、いい方法はないだろうか?、と。

 家屋のメインの屋根に対し、その軒下から緩い角度で庇(ひさし)のように延長されている屋根を『下屋(げや)』と呼ぶ。この辺りでは"しころ"と呼んだりもする。大屋根は茅葺きでも、下屋はトタンや瓦であることが多い。

 茅葺きは大抵の場合、この下屋の瓦などにべっちゃりと押し付けるような形で軒を付け始める。瓦と茅の間に隙間がないように葺くのだ。こうすることで、横殴りの風雨が来ても、雨水が隙間から屋内に侵入しようとすることを防ぐのだ。

 ただしこれは、茅葺きの方を葺き替える時に有効な話。下屋の方を葺き替えるとなると、非常にやりにくいことになる。下屋に押し付ける形で葺いてある茅が邪魔になるせいで、下屋の屋根材が奥まで入っていかないのだ。

 茅より手前で下屋の屋根材をストップさせてしまうと、激しい雨の時に雨水が侵入するかも知れない。他の屋根材と違って、茅の屋根の厚みは年々減っていく。今は良くても、数年後には雨漏りのリスクが増えるのだ。だから手間でも、茅より奥まで下屋の屋根材を葺かねばならない。

 そこで、茅の軒の奥を少し切り上げて、その隙間から瓦を奥まで葺けるようにしたい、ということだった。

 単純なことのようで、なかなか難しい。瓦屋さんいわく、剪定バサミ、チェンソー、果ては草刈り機に至るまで、様々な兵器で挑んだらしい。しかし、なかなかうまいこといかない。茅葺き師としてもハサミで切るしかありませんとしか言えない。都合が許す1日だけ、切れるだけ切りに行くことにした。

 たかが草をギュッと集めただけの部分である。簡単に切れるやろと思われるかも知れないが、茅の角度、固さ、空けるべき空間、こちらに許される作業の姿勢…。諸々を考え合わせると、一筋縄ではいかない。手も腰も足も悲鳴を上げるような作業体勢の連続。本職ではあれども、イレギュラーな条件での軒刈りはさすがに苦しかった。

 たまに他種の屋根屋さんと一緒に仕事をさせて頂くのも楽しい。いろんな屋根材に対応出来るようになれれば…とも思うが、それぞれに奥が深い。いくつになっても学ぶべきことは尽きない。