vol.95 緑の散髪

 茅葺きの作業工程の最後は、大抵"刈り込み"になる。およその形や角度で葺いていたものを、最後に理想とする完成形に向けて成形していく。

 最小限の刈り込みで済むように、葺いている段階でなるべく完成形に近付けておく。しかし、中には思い切り余分なボリュームを持たせておいて、そこから彫刻のようにハサミを入れて形を切り出す場合もある。

 

 最後の一面の葺き止まり。後に乾燥するとガチガチに固まって抜けなくなる杉葉を用いた。行程的にはデザートのような作業だから、気分的には楽しい。すでにこれ以上入らないというくらいまで茅を詰め込んだ上から、さらに杉の固い枝を差し込んでいく。結果的に手前側は杉の葉でボサボサになっていく。ハサミを入れる予定のラインに、杉葉のもっともボリュームのあるところがくるように、差し加減を調整する。必要なだけ詰め込んだら竹で縫い止め、いよいよこのモリゾーキッコロのようなボサボサが、抹茶羊羹のような美しい断面と角を描くよう、ハサミを入れていく。切ってしまえばやり直しは効かない。雨漏りするような箇所ではないものの、やはりそれなりに気を遣う。

 やがて乾燥して茶色になっていく杉葉だが、今だけの鮮やかな緑が美しい。茅の白と、杉葉の緑。この境界線をくっきりと出すのも、屋根屋の技。白い茅の上に緑の杉葉を並べただけではまっすぐな境界線は出ない。順番に並べたはずの白い茅と黒いスス茅が、波打って混じっている屋根面がいい例だろう。

 

 カメラを携えて、お施主さんが地上から喜んで下さるのが嬉しい。見た目に対するこだわりは屋根屋の自己満足の割合が低くないだろうが、やはり、自分の仕事が喜んでもらえることは、仕事人にとって最高の幸せだと思う。