vol.86 杉皮折り

 降っても照っても文句を言うのが屋根屋なのだが、いくら何でも今年の梅雨は降り過ぎだ。"ようやく梅雨が明けそうです"という天気予報のコメントを、先々週くらいから聞いている気がする……。

 だましだまし現場を進めるも、降ったりやんだりの合間に茅を葺いても能率が悪い。荒天時用に残しておきたい仕事を、序盤に使い果たしてしまいそうだ。

 

 棟で使う諸々の資材の準備は、雨プロにはピッタリ。工事が棟に至るのはまだまだ先だが、仕方がない。

 茅葺き屋根のてっぺん"棟(むね)"には、多くの地域で杉皮を被せる。杉皮とは、文字通りスギの木の樹皮。日本では昔から、屋根や外壁の化粧などに利用されてきた。

 茅を葺き終わった最後に杉皮を被せて、てっぺん部分の防水措置とする。関西であれば、真ん中で半分に折り曲げた杉皮を、てっぺん部分の三角に被せる形で屋根の葺き終わりを塞ぐ。

 

 杉皮は扱いがなかなか難しい。茅と同じく自然の産物なので、ものの質がまちまちだ。1束に収められている量は一緒でも、1枚1枚の幅や厚さはまちまちである。そして、なかなかデリケートな品物。要の部分で使おうと取っておいた皮がふとした拍子にパリッと半分に裂けてしまったり、油断している間に直射日光を浴びた皮がクルクルと巻いて固まってしまったりする。あえて曲線的に加工したいなら、水にボチャンと漬けて吸水させ、柔らかくさせる必要がある。

 茅と逆で、湿り気は大して問題ないが、カラカラに乾くと荒れやすくなるのだ。屋根にしてしまうまでは、管理に気を遣う。

 

 杉皮折りは単純作業。後輩やアルバイトの方に任せて自分は別のことを進めていることが多かったから、自分の手でひたすら折るのは何となく久しぶり。今までは、「誰だ、こんな下手くそな折り方したのは…。」なんてブツブツ言いながら棟工事をすることが多かったのだが。さて、どうなることか。