vol.81 捨てるところのない素材

 若いご夫婦がお住いの茅葺き家屋。メンテナンスとして、コケに覆われた北面のコケ落としに伺った。

 コケは茅葺き屋根の傷みを加速させる。早めにコケを落として、下に隠れていた屋根面をなるべく平らに均してあげれば、茅屋根の腐食を遅らせることが出来る。

 発生した茅クズの片付けはご主人がお手伝い下さり、午後には奥様が手作りのおまんじゅうを用意して一服に呼んで下さった。公共工事にはない、こうしたお施主さんとのあたたかい触れ合いは嬉しい。

 

 落としたコケと茅クズは、家の敷地の端に置いて下さいとのことだった。廃材処理の費用と手間をかけぬよう、お施主さんに近くの廃棄場所の提供をお願いすることが多い。そもそも茅葺きは田舎に多いので、田畑や山林などの空き地を持っている人は少なくないのだ。

 そして廃棄物といっても、屋根の上で長年かけて堆肥化したススキ等の植物素材である。大地に放置されても、数年のうちに土に還る。

 今回のお施主さんも、畑の肥料がたくさん出来たとお喜び。屋根が元気になり、その廃材で畑が元気になる。素晴らしいサイクルだ。

 先日、刈った茅を引き取りに行ったお家の方は、茅のゴミと木材系のゴミの袋をわざわざ分けていた。えらく細かい分別だなと思っていたら、茅(ススキ)のゴミは畑のウドの周辺に毎年敷いておくのだそうだ。刈った茅が屋根やお金になり、そのゴミでウドを育てる。こちらもあますところのない見事な茅の利用。

 

 捨てるものに活用法を見い出せれば、ものの価値は倍になる。新建材の耐久性や低コスト性には敵わない茅葺きだが、ものの見方と利用の仕方で、その差はいくらか縮められる。何より、自然のサイクルの中に自らの生活を少しでもシンクロさせる生き方は、きっと気持ちがいいだろう。