vol.78 宝の山で宝探し

 ずいぶんと日が経ってからの投稿となってしまいましたが…。

 一度行ってみたかった、日本有数の茅の産地、九州の阿蘇へ。厳密には大学生時代に観光で訪れたことがあるのだが、当時は茅に興味などなかった。

 

 改めて見渡すと、まさに圧巻。広大な丘陵地もさることながら、やはりこの景色のほとんどが茅場であるという現実に、茅葺き職人としては興奮してしまう。地面からお金が生えているのと一緒・・・それが見渡す限り。まさに宝の山と言える。長きにわたって、山焼き等で茅場が守られてきたこその景色なのであろう。

 

 しかし、茅刈りさんに案内してもらいながら茅場をめぐるうち、そんなに甘くない現実も知った。茅刈りの予定地が、今年は刈るに値しない荒れた茅ばかり…というゾーンも多い。いいものだけを選り分けて刈っているようでは、人件費的に大赤字となってしまう。だから、よりよい茅が密集したゾーンを探す。しかし、今度はトラックが接近出来ない。せっかく極上の茅をたくさん刈れても、人力で運び出せる距離には限界がある。

 

 自分もわずかながら茅刈りの経験をして分かったが、"茅の鉱脈"とでも呼ぶべきものがある。一面ススキだらけだったとしても、喜んで刈りたい質の茅は少ない。良質の茅が密集しているゾーンに出会うと、鉱脈を見つけた気分になるのだ。

 この広大な阿蘇の茅場の中で、鉱脈と言える場所はどれだけあろうか。そこにトラックは近づけるか。そこは来年も同様に鉱脈として存在するだろうか?

 

 鎌で刈り取られる1本の茅にも、刈り手の苦労が詰まっている。そのことを職人として常に胸に置いておかねばならないと痛感する。茅は最もエコな産業廃棄物ではあるが、1本でも多くの茅をゴミではなく屋根にしてあげるよう、心掛けねばと改めて思う。