補修で充分いけるのにな…という、まだまだ元気な屋根を葺き替える場合もあるが、一方でこういうケースもある。
雨漏りさえしなければいい、というSOSの依頼だが、もはや修繕出来る程度の屋根すら残っていない。残された厚みはコケを含めて10cm程度。つまりコケを落としたらほとんど下地が露出する。よく今まで平気だったものだと思えば、雨漏りし出してからもうかなりの月日になるという。下地にも水が回って、部分的にボソボソになってしまっている。
もっと早く修繕していればこんなにひどいことにならなかったろうに。そう思うものの、それが出来なかったからこうなのだろう。
対症療法で部分的にちょこちょこ直すより、数ヵ年計画で備えてしっかりと葺き替えた方が、長い目で見てコスパもいい。屋根が傷んできたら、深刻化する前に修繕を行なうことで、屋根の延命を期待出来る。
理屈としてそう分かっていても、まずはお金がいる。茅を刈りためれば材料費を抑えられるかも知れないが、茅を刈るより日々の仕事をこなさなければならない人の方が圧倒的に多いのだ。
トタンを被せてしまえば、茅葺きの悩みから解放される。では、トタンをかけるための費用はどうするのか…。苦しいところである。
屋根職人としては、当然何とかしてあげたい気持ちでいっぱいである。一方で、お金になるような仕事であろうはずもない。それでいて、非常に直しにくい状況下で、最低限の作業で終わらせなければならない。こちらも悩ましい。
しかし、雨漏りに困っている人のもとに駆け付けられてこそ、互いの喜びもある。「一服して下さいね」とお茶を出して頂き、ちょっとした世間話に花を咲かせ、時には畑で採れたものを頂いて帰り…。お施主さんとのやりとりも、その現場の思い出の大きな要素なのだ。
こちらも基本ひとりで細々やっている屋根屋である。庶民的な悩みに寄り添える屋根屋であれたらいいと思う。
さて、ともかくこの屋根をどうするかだ。もはやこの屋根を屋根としてつなぎとめているのはコケだけである。仮に家全体を揺すぶれば、茅が全てずり落ちてきそうな現状。下手に触ればどつぼにはまる。屋根を見つめたまま硬直しそうになるが、こんな時は手を動かした方がいい。茅を、屋根を、触っていれば、手が答えを出してくれるはず。
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