vol.73 茅刈り

 美山に暮らして、こんなに雪ナシの暖かい冬は初めて。雪の代わりに雨がよく降る。夏の異常な猛暑といい、気候変動の影響だろうか。楽な冬でいいけど、とは言いつつも、言い知れぬ不安が何となく頭をよぎってしまうのは皆同じではないだろうか。

 ともあれ、暖かく雪のない冬。立ち枯れしたススキが風にそよいでいるのを見るたび、もったいない…という気持ちになるのは茅葺き職人の性。本来、どっしりした雪の降る美山のような地域では、降雪によってススキが倒れてしまう真冬までに茅を刈り取る。だからまだ葉っぱが残り、青みがかった状態の茅を刈ることになる。

 しかし今年に限っては雪がなく、茅が倒れることなく立ち枯れている。刈り取ればほどなく材料として屋根に使えるような状態。あえてストレートな言い方をすれば、我々にとって、お金が地面から生えて風にそよいでいるようなもの。

 地権者に許可を取った上、年明けから茅刈りをさせてもらうことにした。

 文字通りの自然の産物。品質は一定であろうはずがない。それでも、材料が手元に、地元に、存在することは何かと心強い。重労働ではあるが、草ぼうぼうであった土地がきれいに更地になっていくのも気持ちがいい。苦労して丸一日かけて刈り取った茅も、使ったら一瞬でなくなってしまう量である。それでも、どこかの屋根で使うことが出来れば嬉しい。

 

 毎日茅刈りをしていると、カヤネズミの巣をしばしば見つける。そういえば今年は子年(ねずみどし)。これも何かの縁かなと思いつつ、茅場、ひいてはカヤネズミのねぐらまでも、気候変動でなくなってしまうことのないよう願う。