vol.63 カヤネズミの巣

 屋根用の茅(ススキ)を捌いていると時々お目にかかる、鳥の巣のような草玉。『カヤネズミ』という日本最小…親指サイズのネズミの巣である。山里の美山ではそう珍しくないが、今ではレッドリストに載るような希少種となりつつある生き物らしい。

 

 なぜ希少種になってしまったかと言えば、都市開発等により、その生息環境となる草原が激減してしまったからだ。茅葺きがコンクリートの建物へと変わっていき、茅場が整地されアスファルトに固められていったのと同じ流れと言えるだろう。

 高度成長期など、都市開発が盛んに行われた時代には、その時代なりの夢や希望、展望があったのだろうから、一概に否定も出来ない。けれど、茅葺きも、茅場などの草原も、そこに住まう多様な生き物も、一方的に失われていくべきものではない。人間が生きていく上での根本となる指標は、たぶんその辺りにこそ見つかるのではなかろうか。

 

 だから、茅の隙間からポロっと出てくるカヤネズミの巣を見つけると、どっこい生きてる様を見るようで、何だか嬉しい。こいつらはおそらく、難しいことなど考えず、ただ日々精一杯、それでいて淡々と、生きているだけ。そんな生き方を見習いたい。

 

 先日、家族で見ていたテレビで、カヤネズミのことが紹介されていた。茅から出てくる巣をしょっちゅう見ている自分に対し、家族はその小さなネズミ本体をよく見るという。「そうそう、この小さいネズミ。だってうちのネコたちがよく捕まえてくわえて来るもん。」

 …どっこい生きるのも楽じゃないらしい。淡々と生きているなどと言ったら叱られるか。