vol.61 脇付け部分の溝

 前回の現場も今回の現場も、同じ部分が局所的に腐ってしまっている。角(かど)の隣部分、脇(わき)と呼ばれる辺り。それも、妻側(4つある屋根面のうち、破風があって面積が少ない方の面2つ)の脇ばかりだ。

 茅葺きにおいて角(かど)は難しい箇所だが、反面、角が最初にボロボロに傷んでしまうことはあまりない。降った雨水は重力に従って、なるべく真下へと屋根を伝っていく。角に降った雨は、角を伝って降りていくのではなく、真下へ・・・角の脇へとこぼれ落ちていくのである。

 つまり、角や屋根の上の方は、降ってきた雨で濡れるだけである。

 対して、脇や屋根の下の方は、降ってきた雨プラス、上から伝ってきた雨水にもさらされて濡れ続ける。屋根上部よりも軒付近の方が早く傷むことが多い理由の一因である。

 

 脇の部分は、上手に葺くのに少しテクニックがいる。斜めに取り付けてある角から、真ん中に向けて茅を縦に戻していく部分である。失敗すると、そこだけ茅屋根が固まらずにバサバサふわふわになってしまう。

 ただでさえやや傷みやすい箇所である脇が、茅の密度が薄くバサバサになっていると、余計に早く傷んでしまうのだ。

 

 今回のケースは、おそらくそれとはまた別の理由であろうと思われる。妻面だけを葺き替える際、すでにある古い角をそのまま利用して、そこに脇付けをしてつなげるという方法で葺いたのだろう。関西ではあたり前に見られる手法であり、我々も普段行なっているやり方である。

 おそらく、その古い角と新しい脇のつなげ方が甘かったのだろう。葺いた直後は上手につながっているように見えても、少し茅をかき分けたら中がスカスカということがある。つまり表面がいくらか腐って落ちたら、急に大きな溝が発生した、ということだろう。そこへ雨水が流れるようになり、加速的にそこだけ傷んでしまった。

 

 今回は痛みがひど過ぎて、コケと土を落としたら骨組みまで露出してしまった。局所的に薄く葺き直すような形で対処するしかない。