vol.58 ハサミ研ぎ

 ハサミは茅葺き屋根職人にとって必需品のひとつだが、なかなか手のかかる道具でもある。ホームセンターで購入して、切れなくなったら替え刃と交換して…という物品と同じようにはいかないのである。

 まず、用途や自分の使い癖にあったハサミを製作しなくてはいけない。気に入ったハサミが出来ても、柄が損傷すればまた作り直しだ。

 そして、使用するごとのメンテナンスが当然必要になる。ハサミの場合は特に、“研ぎ”の作業をいかに小まめに行うかが大事になる。

 

 職人の仕事はテンポが大事。屋根面や軒をハサミで仕上げる時など、いかに鋭い切れ味を保ち続けられるかで、作業のはかどり方や心身の疲労に大きな差が出る。

 小まめにハサミを研げばいい。考えるまでもないことだが、意外と出来ない。切れ味が落ちてきた…と実感する。いったん作業を中断して研ぐか、いや、正直面倒臭い。もう少しだからこのまま何とかやってしまうか・・・。そんな気分がよくある。

 ハサミは、小まめに研げばこそ、簡単に鋭い切れ味を取り戻せる。しかし、研ぎを先延ばししてなまくらになるまで酷使してしまうと、今度は少し研いだくらいでは鋭い切れ味が戻らず、逆に苦労する。

 "研ぎ"そのものも難しい。未だにこれだという勘所が掴めない。チョンチョンに研いだつもりなのに、最初のひと刈りで切れ味にガッカリすることもある。刈り方、研ぎ方、刈る素材…追求すべき事柄は多い。

 

 休憩時間にせっせと研いで、意気揚々挑んだ軒刈り。ものの数分後、異常に硬いイヤな手応え。茅の中に太い割り竹が混じっていた。さっきまで一生懸命研いだ刃が、一瞬でノコギリ状に刃こぼれ。長い溜め息をつきながら、改めて砥石に向き合う。