建築用語で『やくもの』というものがある。建物の形状の特殊性などにより、通常とは違う仕様・形で用いられる建築材料を言う。だが広義では、"形状が特殊なため施工が厄介なところ"、という意味で使われていることが多いように思う。
今回の現場は、そういう意味でのやくものが多い。段違い、斜め軒、茅屋根に垂直に交わる棟瓦、東側は入母屋、西側は切妻…などなど。ひとつひとつはやくものと呼ぶほどのものでもない。だが、今回くらいの小さな屋根にこうもたくさん特殊な箇所があると、もはや"普通の部分"が少ない。結果的に、やくもの同士を上手につなげていくことで、屋根が出来上がっていくことになる。これがなかなか難しい。
職歴が浅い頃は、やっておけと言われて呆然としたもの。どう手をつけていいか、さっぱり分からない。「見てないで手を動かせ!そしたら勝手に屋根が出来てくるんや。」と親方から声が飛んでくる。分からないのにどうやって手を動かせっちゅうんか…と心の中でぼやきつつ、やってみる。そして、撃沈。やり直しである。
雨休みの日、茅葺き集落を歩きながら、完成形のイメージをつかもうと、似たような形状の屋根を探して歩いたりしたものである。
ある程度経験を積んでくると、どう攻略してやろうかと、やくものの対処も楽しめるようになってくる。何より、単調な屋根よりやくもの付きの屋根の方が、完成した時に見どころがあっていい。
のんきなことを書くのは、うまく攻略出来てからにしたらどうや…ともう一人の自分がささやいてはいるが……。
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