vol.28 軒の刈り込み

 下から進んだ平葺きの仕上げは、上から降りながらの刈り込みである。一段一段足場を外しながら、屋根面の凸凹を平らに均しつつ降りていく。そして最下段の軒に至ったら、いよいよ最後の作業、軒刈りとなる。

 でこぼこ、そしてモシャモシャとした葺きっぱなしの軒が、スパッと真っすぐな断面となるよう、慎重にハサミを入れていく。深くえぐり過ぎても、刈り方が浅過ぎてもいけない。しんどい作業だが、モサッとした茅の塊のようだった屋根を、芸術作品へと変えていく瞬間である。手は抜けない。

 

 軒の前に座ってハサミを掲げて刈り込む。これはおそらく全国的なスタイル。美山の流儀はやや特殊で、屋根に背中を向けて立ち、前屈する。そして股下から軒を覗き込むようにしながらハサミを入れる。

 やや滑稽な姿になるが、この格好なら軒が低くても対応出来る。自分もこのスタイルの方が慣れている。

 ただし今回は4面全て刈らねばならない。数日間ずっと股覗きの格好でいるのはいくら何でも苦しい。立ったり、座ったり、スタイルを切り替えながら、どうにかやり過ごす。

 

 これまでバタバタと騒がしかった現場から、急に人の動きが少なくなり、"シャキッ…シャキッ…"というハサミ音だけが響き続けるようになる。いよいよ、完成まであと少し。