職人デビューの第一歩は、美山では"真ん中並べ"という立場である。手元として長く働いてきた後、ある時急に、「茅を並べろ」と言われる。ついに自分もそのレベルに達したか!…と思ってしまう瞬間だが、人に指示する立場になってきた今なら分かる。指示する側は、後輩や弟子、手元に、どの現場でどこまでやらせてきたかイマイチ把握していないのだ。だから、当たり前のように初挑戦のことをやっておけと言われる・・・。
美山では、"真ん中並べ3年"という茅葺き用語があるらしい。真ん中とはつまり、角(かど)以外のことである。単純に説明すると、茅葺きは"角"が難しい。それゆえ角はその現場においてのベテラン職人が受け持つ。真ん中、つまり角以外の場所を3年もやれば、自ずと角も出来るようになってくる、というわけである。
しかし"真ん中並べ"は、決して気楽な立場ではない。角を葺く者を"尾師(おし)"と呼ぶが、尾師は黙々と自分の角に集中する。比較的単純作業を受け持つ"真ん中並べ"役が、手元への指示役となるのである。こんな茅をこれだけ持ってこい、竹は何本必要だ…etc。専門のベテラン手元ともなれば、ガンガン真ん中並べに問いかけてくる。茅を置くのはここでええんか⁉、次はなんぼで切ったらええんや⁉、細い竹もうないけどどないするんや⁉、…等々。先輩は知らんぷりで角に取り組んでいる。こうして新米の真ん中並べは、ドギマギしながら現場の進め方を身につけていくのである。右往左往の作業の合間、スキを見て先輩や親方の技術を盗み、いつか、"角"を触らせてもらう日を目指して。
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