vol.5 信じがたいこと

 最近は台風被害の応急処置の現場がしばしば。あの強烈な風雨の前では、さすがに茅も瓦もトタンもひとたまりもない。どの屋根も、上からの雨に対抗する手段であって、水平方向、或いは下からさえ吹き荒れたあんな風雨に当たり前に耐えれられるものではないのだから。

 

 今日は悪天候だったものの、やはり台風被害のご近所のお家へ。ふっ飛んでしまった棟の部材の修復ついでに、老朽化した棟の着せ替え。

 美山の屋根のてっぺんで、X型に組んである部材を"千木(ちぎ)"という。全国いろいろな棟の種類があるが、美山は『置き千木』というスタイル。下から見上げるとどうということはないけれど、2mほどの長さがあり、栗の木で出来ている。つまり線路の枕木と似たようなもの。とてつもなく重い。

 これをふたつクロスさせて栓でつなぎ、X型にする。この千木を美山では"ウマノリ(馬乗り)"と呼んでいる。

 今日伺った現場では、先日の台風で、なんとこのウマノリがクロスした状態のまま、2組も地上に落ちたという。

 腐って崩れてずり落ちた、のであれば分かる。しかし、重量と仕組みを知っている身にとっては、にわかには信じられないような話である。

 組んだままの馬乗りを屋根から落とすほどの台風。こんなのがこれから毎年来るようであれば、どうしたらよいのかと思ってしまう。