vol.168 さすがに限界

 『たたき』と呼んでいる、毎日の茅葺き作業で最も使用率の高い道具。並べた茅を屋根の勾配に叩き均すための必需品だ。

 茅葺き職人の道具の多くは職人自身の手作りであり、地域差や流派の違い以前に、個人差というものがある。他の職人と一緒に仕事すると、どんな道具を使っているのか気になるものだ。

 

 さてそのたたきが、いよいよ"叩けないたたき"になってきた。長年使用した摩耗により、もはやただの板になりつつある。(※画像 右)

 このたたきは、実は初代。職人見習いの頃に製作し、軽過ぎるからダメと言われてほどなくお蔵入りになった。その後2代目が数年活躍したが、割れが発生し、だましだまし使うも限界を迎え、一時しのぎのつもりで、初代たたきを引っ張り出してきて3代目として使用していたのだ。

 ケヤキの板に刻んだギザギザが、屋根面の茅に噛み合うことで、細かい階段状に面を均していく。そのギザギザがもはやない。力一杯叩いたところで屋根に引っ掛からないのだから、相当無駄な力を使ってしまっていることだろう。

 毎日使うものだから重要案件なのだが、一方で、毎日使うだけになかなか作り替えるタイミングを持てない。材となるケヤキの板も、これというものに出会うまでは…となかなか進まない。そんなこんなでここまでになってしまった。いくら何でもこれで仕事し続けるのはマズい。いい加減、重い腰を上げなければ。