vol.165 板金仕事

 茅葺き屋根の軒下から、勾配の緩い瓦やトタンの屋根が伸びている家は多い。下屋(げや:美山では"しころ"と呼んだりする)という部分で、これを設けることで、天井高は低いものの、屋内をやや広くすることが出来る。

 今回の現場の場合、両大間は葺きおろし(茅葺きの軒で終わり、軒裏が覗ける形)で、両妻面が下屋付きである。

 下屋は家の歴史において後付けであることが多いから、茅葺き屋根相手には特に、何かしら不自然な点が発生してしまうことが多い。

 茅葺きの軒と下屋の隙間が大きければ、下屋の施工自体は楽だろう。しかし、台風などで横殴りの雨が降った時、隙間から雨水が屋内へ侵入する恐れがないとは言えない。通気し過ぎて寒い、獣が出入りするなどの弊害もある。

 茅葺きの軒と下屋がピッタリと隙間なく付いているのが理想なのだが、これは下屋が施工されている上から茅葺き屋根を葺く、という順でないとうまくいかない。当たり前のようなことであるが、先述の通り、大抵の場合下屋は後付けである。すでに葺いてある茅葺きに対し、何とかして下屋を設けているのである。

 茅葺きを解体してみると、軒部分の茅にトタンが刺さり込む形になっていた。言うなれば、正座している人の膝元に座布団を無理やり押し込んだような形である。

 長年雨漏りしなかったのだから、これで間に合うのだろう。しかし茅を取り払った今なら、というか今だけ、トタンを延長することが出来る。余計な手間ではあるが、やっておけば十数年後に茅葺きが薄くなっても、軒の奥まで入り込もうとする雨水をトタンが防いでくれる。

 

 今まで、下屋のある屋根面の方が何かと楽という気持ちがあった。足場もしやすいし、軒裏が見えることもないのでその辺りの見た目に気を遣う必要もない。

 しかし此度の現場では、下屋の形状のために全ての角に違う技術を求められ、苦労を強いられた。見習いの頃ならば、睨んで悩んで一日が終わっていただろう。難所攻略もこの仕事の楽しさのひとつだが、何事も、ほどほどがいい…。

 

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コメント: 2
  • #1

    KIYOMI (水曜日, 29 3月 2023 01:22)

    そこまで考えてもらっていたとは…奥深いんですね。ある意味楽しい!よくわかります!

  • #2

    ぶんな (水曜日, 29 3月 2023 18:59)

    kiyomiさんありがとうございます(笑)!皆様のご協力のおかげで、細かいところまで気が回せます。