vol.129 稲わら

 茅葺きはしばし『わら葺き屋根』と呼ばれることもあるが、厳密にはわらで屋根を葺いているわけではない。一般的にはススキやヨシなど、より耐久性の高い植物材料が使われる。

 しかしそれらの刈り取り・貯蔵には多大な労力がかかる。その点で、稲わらや麦わらは、農家にとって毎年確実に手に入る副産物。だからかつては、一般庶民の屋根は『わら葺き屋根』だったのだ。耐久性が低くても、毎年確実に手に入るわらという材料で、小まめに葺き替えたらよいという仕組みだ。

 今日では、わらで葺かれた屋根というのは逆にかなり珍しい。稲わらや麦わらは、大抵の場合は雨水の当たらない(耐久性を問われない)部分で使用される。

 現在では稲わらや麦わらも、手に入りにくい貴重な材料となっている。現代農法では、わらは刈り取りの際に同時に裁断されて田畑に撒かれてしまう。ある程度"昔ながらのやり方”でなければ、わらは残らないのだ。

 

 稲木干しを行なっているお家に今年もお世話になり、稲わらを譲って頂いた。天日干しのお米はおいしく、わらも手に入り、稲木干しされている風景は絵的にのどかで美しい。

 良いことずくめのようだが、大変な手間もかかる。天気も心配される。苦労したからといって、収量が保証されるわけでもない。だから、稲木干しをしている方が近くにいて下さるということは、本当にありがたい。

 

 茅葺き屋根は文化史的に貴重で、保全していくべきもの…という風潮はあるが、その底辺をたどっていけばあらゆる分野に繋がっている。建物と施主と職人、だけでは済まされない。茅と茅場、刈る人。お百姓さん。大工さん。縄屋さんに鍛冶屋さん、材木屋さんに竹材屋さん…etc。数え上げればキリがないが、どれかが途絶えてしまえば未来はない。

 繋がりって大事だな。自分のことだけでなく、繋がっている先のことにも目を向けていかなければいけないな…。稲わらを頂いた上に昼ご飯まで御馳走になりながら、ありがたやの気持ちとともにしみじみとそう思った。