vol.128 2回目の差し茅

 薄めの葺き替えから差し茅へ切り替えつつ進めた屋根工事。今回は改めて、差し茅の難しさを実感したような現場だった。

 大掛かりな葺き替えに比べて、既存の屋根に茅を差し足していく差し茅は、何となく気楽さがある。しかし、1から思い通りに進められる葺き替えに比べて、既存の屋根に合わせて方法を調整、判断していかなくてはならない差し茅は、実際のところかなり奥深く、難しい。

 差し茅を終えて、表面上きれいにすることは難しくない。しかし、茅がどのような角度で差し込まれているか、どのような長さ・質の茅を差しているか、そういった違いで、その後の屋根の寿命が大きく変わってくる。

 差し茅を行なうほど、使われている茅の角度は水平に近づいてくる。水平になるほど、1本1本の茅が雨水を下へとはじいていく機能が鈍る。

 また、短く切った茅を使うほど差し茅作業は簡単になる。しかし抜けやすく、茅がより水平になってしまいやすい。

 少しでも耐久性を上げようと思ったら、古い茅を引っ張り出すばかりではなく、逆に押し込んでやる作業なども必要になってくる。そして水平になりがちな茅を、何らかの手段でグッと起こしてやらねばならない。その場その場で屋根がどうなっているか見極め、方法を選ばなければいけない。

 

 この屋根は、かつて差し茅が行われている様子で、短い茅がたくさん差し込まれている。葺き替えられた当時の茅に至っては、15㎝程度にまで減ってしまっているものもある。こんな茅を引っ張っても、ほどなく抜け落ちてしまう。短い茅は取り去って、新たに差す茅でボリュームを補充せねばならない。しかし2回目の差し茅であり、これ以上茅を寝かす(水平に近づける)ことはマズい。(うぅ、めんどくさ…)という思いにかられるも、仕方ない。茅を差す前にあれこれと仕込む。

 

 下からお施主さんが、「きれいにしてくれてありがとうな~。」と声を掛けてくる。「もう雨漏りの心配しなくても大丈夫ですよー。」と上から答えた際の、お施主さんの笑顔が心に残る。面倒臭いなどと避けてはいられない。

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コメント: 2
  • #1

    杉原バーバラ (日曜日, 03 10月 2021 12:50)

    指し茅がこんなに難しいとは驚きました。端から見ているといかにも簡単そうに見える作業がこんなに複雑な面があるとは考えていなかった。お話がとても勉強になりました。ありがとうございます。

  • #2

    ぶんな (日曜日, 03 10月 2021 17:05)

    バーバラさん、ありがとうございます!ややこしい文面で恐縮です…。私も新人の頃は差し茅を舐めてましたが…奥が深いです。