vol.119 麻幹(おがら)

 屋根裏の片付けをしていたというご近所の方から、要るか?と声が掛かり、伺って引き取らせてもらった。白く太い、ややクセのある曲がり方をして、パキパキと折れやすそうな枝のようなもの。

 これは麻幹(おがら)。いわゆる麻の、繊維を剥ぎ取った残りの芯の部分である。神事やお盆などに利用されることで知られているが、茅葺き屋根にも部分的に使用されることがある。

 現代日本において、麻幹(おがら)は極めて希少な材料になっている。昔は全国各地で麻栽培が行われていたはずだが、今日では国内のごく一部でしか栽培されていない。

 麻という優秀な繊維を生み出し、芯の麻幹(おがら)は副産物として屋根材や燃料、神事などに利用され、葉などはいわゆる大麻(=マリファナ)の原料となる。捨てるところのない植物と言えば聞こえはいいが、この大麻の原料となる点が厄介。それゆえに規制され、現在では自由に栽培することは出来ず、その許可を得ることも極めて困難なことであるらしい。

 健康志向の高い人やオーガニック系~といったものが好きな人は、『ヘンプ』という呼び名の方が、麻に馴染みがあるかも知れない。マリファナなどは別としても、利用の仕方によって様々な効用のある植物らしい。

 

 「昔はどこの家も川原でドラム缶のようなもんで湯を沸かして、たぶんあれが麻の繊維を剥く作業してた光景だったんちゃうかな…。」お家の方も思い出しながら話しておられた。

 茅葺きも麻も、世代を越えて注目をされ出した頃には、存続の危機に瀕している。いや、危機に瀕して初めて価値を見直されるというのが、大抵の摂理なのか。

 マリファナに興味はないけれど、失われた麻栽培が復活することには何となくロマンを感じる。外国産に偏見を持つわけではないけれど、国産のものが増えるに越したことはない。自然を破壊してしょーもない(と感じられる)公共工事にお金が費やされるくらいなら、失われた第一次産業や循環型の人の営みがもっと大事にされたらいいのにと思う。