vol.117 檜皮(ひわだ)

 茅葺き同様、植物素材で屋根を葺く職種に、檜皮(ひわだ)葺きと杮(こけら)葺きがある。自分の仕事とは関係ないけれど、今回の現場施工中、近くで檜皮葺きの職人さんが、檜皮の採取をしていた。そうそう出会わない機会で、興味津々。

 杉皮なら茅葺き職人もよく使う。が、我々が使う杉皮は、杉の木から皮をベロっと完全に剥いてしまったものだ。切り倒した杉の木の副産物、というところ。立ち木で行なえば、恐らく枯死してしまうのだろう。

 しかし檜皮葺き用の檜皮は違う。生きたヒノキから、檜皮葺きの材料として必要な層の皮のみを剥ぎ取って、木そのものを生かす。すると10年ほど経った頃には、また皮を採取出来るようになるらしい。例えばそうした採取地が10ヶ所あれば、ローテーションで毎年檜皮の採取が行なえるというわけだ。

 剥いだ皮を見た。ヒノキの一番外側のガサっとした部分。普段使う杉皮が基準となっている頭には、薄っ!と感じられるペラペラもの。屋根材として精製したらなお薄くなるだろうに…。

 これでよくあんな立派な檜皮葺きになるな…と感心したけれど、たぶんススキで屋根を作る茅葺きも、似たように感じられるのだろう。檜皮の職人さんも、こちらの作業風景をよく覗きにきて、たびたび質問をしてきた。興味津々なのはお互い様と言ったところか。

 

 表皮を剥かれて真っ赤になったヒノキは、何となくヒリヒリと痛ましくも見える。けれどこれも茅刈り、野焼きといった流れと一緒。人の営みと自然のサイクルを調和させていった結果、出来上がった形。自然から頂く、お借りする文化。守られるべき価値のあるものだと思う。